第百三十八話 羽柴の帰還その十
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「あの者にそれはありませぬ」
「絶対にじゃな」
奥村と親しい前田がそうだと相槌を打つ。
「悪弾正じゃ、主家を讒言で弱め大仏殿を焼き公方様を弑逆した者だぞ」
「まず有り得ぬ」
前田と並ぶ松永嫌いの佐々がここで言った。
「あ奴がそんな奴か」
「ないですな、どう考えても」
切れ者の真木が見てもだった。
「あの者は」
「いい加減何らかの理由をつけて消すべきでは」
福富はあえて強いことを周りに言った。
「そうしなければ本当に何時か織田家を乗っ取りますぞ、あ奴は」
「そうしますな、絶対に」
普段は女房の影に隠れていると言われている山内も今は深刻な顔である。
「その隙を伺っているとしか思えませぬ」
「ご機嫌取りなぞ殿に通じぬがな」
氏家だけでなく他の者もそう見ている、信長がそんなもので気を取られる様な者ではないことは明らかだ。
だが、だ。それでもなのだ。氏家はそこを言った。
「しかし我等の中で誰かそれで松永をよき者と思えば」
「それが怖いですな」
原田は己はそんなことは、というのだった。
「全く以て」
「だからじゃ、よいな」
今家臣達の中で最も言葉が強い柴田がここで言った、こうした時にはやはり彼だった。
「あ奴のこの度のこともじゃ」
「決してですな」
「信じぬことですな」96
「うむ、そんなことはするな」
柴田は他の家臣達に強い声で言う、彼の左右には佐久間や丹羽、滝川といった織田家の重鎮中の重鎮達が揃っている。
しかし柴田は柴田勝家一人としてだ、周りの織田家の同僚達に言うのだ。
「殿は騙されぬ、そして我等も騙されなければ」
「それで、ですな」
「あ奴は手が出せませぬな」
「そうじゃ、何時か確かなものを掴んでじゃ」
織田家の家臣達のほぼ全員がこう考えていることである。
「斬るぞ」
「織田家にとっての獅子身中の虫を」
「それはですな」
「そうじゃ、何時か必ずする」
当然柴田もそのつもりだ、松永を同僚どころか中の敵とみなしている。
「だからじゃ」
「その時には」
「素振りを見せただけでも」
「斬るぞ」
即座にそうするというのだ。
「わかっておるな」
「無論です」
殆どの者が柴田の今の言葉に応えた。
「そのことは」
「今にでも」
「尻尾を掴むのじゃ、蠍の尻尾をな」
松永は今でも蠍と呼ばれている、危険極まる毒虫とだ。
「そして尻尾を見せればじゃ」
「有無を言わさず、ですな」
前田が猛々しい顔で応える。
「是非それがしが」
「いや、それがしが」
可児も出た、織田家きっての武辺者である彼も松永が嫌いなのだ。
それでだ、こう言うのだ。
「あ奴の口にも笹を刺してみせましょうぞ」
「うむ、とにかくあ奴は必ず除く」
柴田がまた言う。
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