第百三十八話 羽柴の帰還その九
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「だからじゃ」
「そのうえで岐阜まで下がられますか」
「そうされますか」
「そうじゃ、近江が取られては次は都じゃ」
必然的にそうなる、織田家にとってそれは天下取りに対する深刻な危機だ、ましてや只でさえ義昭が信用出来なくなってきているのだ。
それでだ、彼も近江の南を固めるべきだというのだ。
「だからだ、よいな」
「はい、それでは」
「近江の南も」
すぐに近江の南が固められる、それはそこだけではなかった。
その都についてもだ、信長は己のすぐの場所に控える信行を見て告げた。
「勘十郎、御主はこのままじゃ」
「はい」
都を固めろというのだ。
「それでは」
「よいな、そしてじゃ」
今度は信広を見る、彼についてはだった。
「それで近江の南、そこはじゃ」
「それがしですな」
「御主に頼む、とにかく近江の南と都は守る」
美濃に戻るその間もだというのだ。
「よいな、そのことは」
「はい、それでは」
「そうさせて頂きます」
信行と信広の兄弟が答える、信長にとって彼等は頼りになる一門衆であった。その彼等に要所を守らせてだ。
そのうえでだ、信長は主な家臣達に告げた。
「では暫し休み岐阜に戻る、論功は済まぬが朝倉との戦の後じゃ」
「その後でありますか」
「うむ、それまでの間時がない」
論功をするその時さえというのだ。
「待ってもらう」
「いえいえ、では次の戦も励むまでです」
「それだけですから」
家臣達は信長の言葉に笑って応える、これで話は済もうとしていた。
だがここでだ、信長は松永を見てこう言ったのだった。
「しかしこの度は御主に助けられた」
「いえいえ、それがしは当然のことをしただけです」
松永は笑ってこう信長に返した。
「それだけのことです」
「ははは、そう言うか」
「あまりお気になさらずに」
「何、論功は忘れぬから安心せよ」
いざという時は気前のいい信長はその彼に彼もまた笑顔で返した。
「好きな茶器を幾らでも申せ、この度はそなたに助けられたわ」
「では一つだけ」
「一つでなくともよい、幾らでも言うのじゃ」
信長はただ気前よく笑うだけだった、だがだった。
家臣達は松永を見て眉を顰めさせていた、そしてこの議の後で彼等だけで話すのだった。
奥村がだ、難しい顔で他の者達に言った。彼もまた松永を嫌っているのだ。
「確かにあの者が殿をお救いしました」
「それはその通りじゃがな」
「はい」
その通りだとだ、奥村は森の言葉に答えた。
「それは与三殿も御覧になられた通りです」
「そうじゃな、この度の功は大きい」
「しかしじゃ」
今度言ったのは村井だ、織田家の中で最も人の好き嫌いを除けて考えていく彼も松永にはだった。
「あの者、それは殿への忠義か
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