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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第七十九話 フェザーン謀略戦(その1)
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で済ませてください。それとエンジンは切らずに」
「二時間ですか、それは……」
コーネフ船長は何か言いかけ口を閉じました。そして大きく息を吐いて提督をちらちらと見ながら話を続けました。
「分かりました、マリネスクの尻を叩きましょう。しかし特別手当が要りますな、役人どもに袖の下を使わないと……」
船長は言い辛そうです。もしかすると提督が潔癖症だとでも思ったのかもしれません。軍人で若いからその手の事は嫌がると……。
フッ、甘いです。ヴァレンシュタイン提督にはそんなナイーブさは欠片も有りません。提督は地獄の悪魔にだって平然と賄賂を贈る、いえ、それどころか賄賂を要求するでしょう。悪魔達だって黙って貢物を差し出すはずです。何と言ってもヴァレンシュタイン提督は氷雪地獄の大魔王なんです。
逆らったらブリザードが吹き荒れ、氷柱で串刺しです。しかも刺されても死なないんです、痛みだけを感じる。何度も何度も突き刺され悲鳴を上げ続ける事になります。その悲鳴を大魔王は嬉しそうに聞いているんです。私が経験してるんですから間違いありません。
「高等弁務官府のヴィオラ大佐に請求してください、払ってくれるはずです。埒が明かない時は私に言って下さい」
「……分かりました」
ほらね、思った通りです。提督はそんな甘ちゃんじゃありません。
ローゼンリッターがチラチラと提督を見ています。補給は二時間、エンジンは切らずに、その言葉に反応しているのでしょう。皆が提督に視線を向け、そして顔を見合わせています。フェザーンで何をするかについては未だ提督から何の説明も有りません。
ですがフェザーン滞在は短時間のようですし、エンジンを切るなという事はまず間違いなく追われることになるという事でしょう。コーネフ船長が口籠ったのも危険を感じたからだと思います。それにしても危険料って……、コーネフ船長、御愁傷様です。
「しかし高名なヴァレンシュタイン提督をこの船に乗せているとは光栄ですね……、ヤン・ウェンリーは元気ですか」
船長の言葉に皆が“えっ”というような表情を浮かべました。もしかして知り合い? コーネフ船長は皆の反応を見てちょっと得意そうです。
「元気ですよ、今は第三艦隊の司令官として訓練に励んでいるはずです」
ヴァレンシュタイン提督がニコニコ笑いながら答えました。提督は驚いていません。最初から知っていた?
「どうやら提督は私とヤンが旧知なのを御存じだったようですね」
コーネフ船長がちょっと残念そうな口調で、がっかりした様な表情で提督を見ています。船長も私と同じ事を思ったようです。
「そんなことは有りません」
「ほう」
船長はちょっと疑わしそうに提督を見ていますが提督は知らんぷりです。相変わらず可愛げがありません。
「船長とヤン提
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