皇太子ルードヴィヒの肖像
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没すると、アルフレット・ブルーノは「元帥の遺志を尊重して」一族に加えられ、本家の命令としていまやかつての地球に近しいところまで地位を低下させたオーディンへ放逐されたのである。
「なあに、気楽でいいさ」
慰める友人フォルカー・アクセル・フォン・バイエルラインにそう言ってフェザーンを後にしたアルフレット・ブルーノがオーディンに到着したのは、正確に一ヶ月後のことであった。
ロルフ・ザイデルという画家がいる。
父親は一兵士から五十年軍隊に務めて工兵大尉にまでなった技術屋であったが、彼には機械いじりの才能は全くなかった。実家である工場は弟のハルトマンが継ぎ、本来なら家を追い出されても仕方ないところであったが、絵画の才能があったことから路頭に迷うことを免れた。
そのロルフが機械の完成予想図を描き、看板を塗り替える合い間に描いた人物画が目利きの貴族の目に止まって画壇に紹介され、絶賛を受けたのはアルフレット・ブルーノがオーディンに到着するほんの一週間前、歴史だけは古い二流大学とはいえ推薦を受けて編入されたのは一日前のことであった。
「ほう、卿があの有名なロルフ・ザイデル殿か」
「そんなたいそうなもんじゃないですよ」
古びた食堂での、ほんの偶然の出会いから始まった会話はアルフレット・ブルーノの芝居がかった大袈裟な、あるいはかっこうをつけた、「アルフレットらしい」台詞から始まった。
最初は不快な表情を隠そうともしなかったロルフであったが、「おかしな貧乏貴族」が「厄介者同士、仲良くいたそうではないか」と「ブルーノらしい」開き直ったあるいは本音を隠そうともせぬ台詞で会話を締めくくり立ち去るころには彼に対して苦笑こそすれ、不快感を抱くことは全くなくなっていた。
かくして、埋もれた人物に光が当たる土壌は準備された。
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