暁 〜小説投稿サイト〜
蒼き夢の果てに
第5章 契約
第73話 湖の住人
[8/13]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
。そして、生まれた時に親から付けられた名前を名乗って居た時の俺を知って居る人間がこの場に現れたとしても、直ぐに俺だと見分けられる人間は少ないでしょう。

 しかし、ジュリオはゆっくりと首を横に振った。
 そして、

「貴方の事は覚えて居ますよ、ガリアの世嗣(せいし)

 爆弾発言を行うブリミル教の神官ジュリオ・チェザーレ。
 俺の事を知って居る人間は少ないはず。しかし、それをブリミル教の神官が知って居ると言う事は、このガリア王国の内部には、未だブリミル教……いや、ロマリアの諜報部の人間が数多く入り込んで諜報活動を行って居ると言う証拠。
 そして、どんなに厳しい情報漏洩を阻止したとしても、魔法が当たり前のように存在して居る世界では、完全に情報が漏れ出さないようにする事は不可能だと言う事ですか。

 これは、俺……。王太子ルイの影武者としての俺が歴史の表舞台に引っ張り出されるのも、そう遠い未来の話ではない、と言う事に成るのでしょうね。
 未だ少年の外見しか持たない末端の神官の彼が知り得る程度の秘匿情報でしかないのならば。

 現在の俺がガリア国王子ルイで有ると言う情報が……。

「今度こそ、僕の手で彼女を救い出したかったのですが、矢張り、それは叶わぬ願いでしたか」

 最早、息をする必要すらない存在で有りながら、ため息を吐くかのような微かな声で、そう呟くジュリオ。ぼんやりと月を見上げるその異なる色彩の瞳にも既に力なく、彼に残された時間が僅かで有る事が判る。

 しかし、それでも尚、今の彼の横顔には微かな笑みが浮かんだ。

「それでも、僕なんかに……。奴らに彼女を引き渡した僕なんかに救い出されるよりは、本当に彼女が待っていた貴方に救い出された方が幸せだったのでしょうね」

 そう呟くジュリオの瞳が追っているのはタバサ。
 但し、この台詞は……。

 そのジュリオの台詞を聞き、ゆっくりと首肯くタバサ。しかし、ジュリオの台詞は本来、彼女に掛けられた言葉ではない。
 彼が言う、奴らに彼女を引き渡した、と言う部分から推測出来る相手は、タバサではなく湖の修道院に幽閉されていたタバサの妹の方。
 そして、その事はタバサも気付いて居るはず。

 タバサが首肯く様子を鳶色の方の瞳で最後まで見つめた後、ゆっくりと瞳を閉じるジュリオ。その表情に浮かぶのは……少しの満足と、そして、少なくない不満。
 満足の部分は、タバサの妹が助け出されたと彼が信じたから。
 そして、不満の部分は、それを為したのが自分では無かったから。

 まして、そのタバサの妹を奴ら、……と彼が呼称する連中に引き渡したのが、他ならぬ彼自身だから。
 心を操られている状態で……。

「ガリアの世嗣……」

 完全に遺言を告げる口調、更に
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ