暁 〜小説投稿サイト〜
蒼き夢の果てに
第5章 契約
第73話 湖の住人
[6/13]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
周辺の大気と共に自らの身体を落ち込ませて行くグラーキー。

 しかし、それも晴明桔梗印結界の内側だけの出来事。其処から一歩でも離れた箇所では、すべてが通常の空間。丸い円と、五芒星に因って隔たれた場所に、異世界の理が作用する事はない。

 そして、

「遙か異界。水晶の跳ね上げ戸の下にて訪れる、汝の眠りに永劫の安らぎを」

 俺の独り言にも似た祈りの言葉を最後に、今回の事件の黒幕、湖の住人グラーキーはその巨大な身体が存在したと言う痕跡すら存在させる事なく消え去っていました。


☆★☆★☆


 すべてが終わり、そして、新たな始まりを迎えた世界。
 この港町を訪れてからずっと吹き続けて居た北風は止み、既にその姿を遙か西の蒼穹へと姿を消した紅の女神と、未だ少し傾いて来たとは言え蒼穹に存在する蒼き偽りの女神。

 そう。ここは既に穏やかな晩秋の夜へとその位相を移していた。
 世界を支配していたのは万里の彼方より打ち寄せる波と、蒼き偽りの女神の放つ光り。今のこの場の何処を探したとしても、つい先ほどまで存在していた異世界の水の邪神の姿を見つける事は不可能と……。

 ……成って居る。そう考えていた俺の瞳に、波間に漂う赤い僧服の姿が映る。
 その瞬間、俺は高度を下げて行ったのでした。



 海……。地球世界で言うなら地中海に面した砂浜の柔らかな砂の上に、最早、息をしていない赤い僧服をそっと解放した。

 邪神の復活の贄にされた為、最早、彼……ジュール・セザールと言う名前の少年の魂を呼び戻す事は不可能と成った事は確実。
 そう。伝承に語られる、グラーキーの奴隷へと移行しない万が一の可能性とやらが、彼の身に訪れる事はなかったようです。
 棘を刺された時に、刺された事に因るダメージが犠牲者を殺すまでに至らなかった場合……。つまり、グラーキーの液体が注入されようとする時に犠牲者。今回の場合はジュール・セザールが生き残って居たのなら、彼は不死者と成る事は有っても、グラーキーの奴隷と成る事だけは防げたと思うのですが。

 未だ生きて居る時と変わる事のない肌は、西洋人の少年に良く現れる白磁の肌を示し、グラーキーの棘に貫かれたはずの赤い僧服も、正面の方にはそれほど大きな損傷も見受けられるトコロも有りません。

 そして、周囲に人払いの結界を施し、彼。ジュール・セザールと名乗った少年の遺骸を荼毘に付そうとした正にその瞬間。
 完全に事切れたと思われたジュールがその瞳を開いた。

 そして、砂浜に身体を仰向けに横に成った状態から、上半身だけを起こしながら、

「君たちは……」

 ……と、先ほどの尊大な態度とはまったく違う雰囲気で問い掛けて来た。
 その時に発する濃い死の気配。ただ、完全な不死者化をしたと言
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ