決戦前
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、小さく頭をかく。
「ヤン・ウェンリーですか。シトレ学校長の一押しですな」
手元にあるのは、それぞれチームメンバーの紹介が書かれた書類だ。
授業の成績から家庭環境まで、細かな情報が載っている。
ヤン・ウェンリー。
戦史研究課程の廃止に伴い、通常であれば成績の上位の一握りしか進めないはずの戦略研究課程に転属した。
戦略研究課程は上級士官を育てる士官学校でも、さらに上級の幹部候補を育てる部署だ。
卒業後は少しの現場をこなした後に、作戦参謀などの重要な地位を与えられる。
いわば、同盟軍でもエリートの集団であって、通常であれば、それに劣る戦史研究課程から進む事はありえない。
しかし、シトレ学校長の一声によって、転属が決定した。
スレイヤーからすれば、優秀であろうがやる気のない人間がそのような地位に来る事はあまり好ましいことではなかった。
当然ヤンに対しても、あまり好意的な印象は持っていない。
だからこそ、冷たい言葉であったが、シトレは小さく唇を尖らせた。
「そういう対戦相手は、スレイヤー教頭の一押しだったかな」
「別に私は押したつもりはありません。彼は総合成績が十四位ですから、押さずとも彼が望めば戦略研究科に配属になったでしょう」
「誰もアレス・マクワイルドとは言っていないが?」
「……う」
にやにやと視線を送るシトレに、スレイヤーは言葉に詰まった。
相変わらず油断ならないお人だと、ため息を吐く。
「わかりましたから、その顔はやめてください。認めましょう」
「おや。教頭の地位にあるものが一人の学生を贔屓したと認めるのかな」
「その唇をもぎ取りますよ?」
「容赦がないな!」
「贔屓の必要がないことは、この手元の書類を見れば十分わかるでしょう。何よりもあなたが一番御存知でしょう」
目を通したのは、アレスの成績が書かれた書類だ。
現在こそ、彼は学業だけではなく実技も優秀であるが、入学当初は実技面はさっぱりできなかった。
特に陸戦は不得意であり、その大人びた態度によって同期からは格好の標的とされている。
即ち、訓練という名のいじめだ。
連続して試合を挑まれ、好き勝手に殴られて、普通であれば心が折れるだろう。
だが、その状況でも彼は折れなかった。
次第に実力をつけて、今では同期は元より先輩との共同試合でも頭角を現している。もっとも、そのせいで、陸戦だけであれば士官学校歴代一位との呼び声も高いフェーガンによって、格好の練習相手にされている。それでも教官ですら十秒は持たないフェーガン相手に、まだまともに戦えるのだからかなりの成長と見ていいだろう。
後は苦手としている戦闘艇と射撃の実技をまともな成績にするだけで、学年主席も夢ではない。
その
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