暁 〜小説投稿サイト〜
銀河英雄伝説〜生まれ変わりのアレス〜
決戦前
[5/8]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
でも大層な名前を付けられてきた先輩、後輩は見てきた。

 だが、これを見ればその名前に疑いを持つ者はいないだろう。
 そこに強いものと戦うという恐怖も、あるいは楽しさもなく、ヤンはパンを飲み込んで、ため息とともに言葉を吐きだした。
 面倒だなぁと――。

「これは昨日負けていた方が楽が出来たかもしれないな」


 + + +

 午前九時ちょうど。
 戦術シミュレーターのおかれた室内には、今日の対戦を控える十名以外は誰もいない。
 教官たちや見学者は別室で待機している。
 静けさを含んだ緊張が流れる中で、ただ一人ヤン・ウェンリーだけが一人小さく欠伸をしていた。

 その緊張感のなさにワイドボーンが不快気に鼻を鳴らした。
「気にしないでください」
 その腰をゆっくりと叩いたのは、アレス・マクワイルドだ。
 そんな彼もまた、初めて真正面から見る同盟の英雄に緊張を隠せないでいる。
 だからといって、緊張感のないヤンに対してアレスが思うところはなかった。

 元々ヤンは軍人として栄達を望んでいるわけではない。
 無事に十年を務めあげて、年金をもらいつつ第二の人生に期待しているのだ。
 原作では戦わざるを得ない状況へとなったが、いまだに帝国とほぼ互角の戦いをする現状では、彼がやる気がなかったとしても不思議ではない。

 むしろ目立つことの方が嫌なのかもしれなかった。
 けれど。
 彼の魔術師ヤンと戦う機会など、ここを逃せばない。
 小さく拳を握るアレスに、ワイドボーンが笑みを作った。

「ふん。余裕があるのは今のうちだと教えてやろう」
 あげられた拳に、アレスが拳を重ねた。


 小さく鳴った音に視線が集中する中で、ゆっくりと筺体に向かう。
 その姿をヤンの隣にいた男が、ちらりと横目で自らのチームリーダーを見る。
「あちらはやる気は十分の様ですね」
「ああ。ま、無様な戦いだけは避けよう。立場が逆の様な気がするけどね」
 いまだおさまりつかない髪を撫でて、ヤンは小さく呟いた。

 + + +

 観客席に備え付けられた一際豪華な長机。
 審査委員長と書かれたプラカードがおかれ、その隣には審査副委員長の文字があった。
 シドニー・シトレ学校長とマイケル・スレイヤー教頭が席を並べて座っている。
 その前に座るのは教官たちだ。

 誰もがこの戦いを前に興奮している。
 学生ではないのだから、一言言った方がいいだろうかと、スレイヤーが隣を見れば、当の学校長ですらどこかそわそわとしている。
 渋い顔をして、スレイヤーがため息を吐いた。

「あなたが焦れてどうするのです」
「あ、いや」
 指摘をされて、どこか恥ずかしそうにシトレは咳払いをした。
 おかれたコーヒーを口にして
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ