決戦前
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でも大層な名前を付けられてきた先輩、後輩は見てきた。
だが、これを見ればその名前に疑いを持つ者はいないだろう。
そこに強いものと戦うという恐怖も、あるいは楽しさもなく、ヤンはパンを飲み込んで、ため息とともに言葉を吐きだした。
面倒だなぁと――。
「これは昨日負けていた方が楽が出来たかもしれないな」
+ + +
午前九時ちょうど。
戦術シミュレーターのおかれた室内には、今日の対戦を控える十名以外は誰もいない。
教官たちや見学者は別室で待機している。
静けさを含んだ緊張が流れる中で、ただ一人ヤン・ウェンリーだけが一人小さく欠伸をしていた。
その緊張感のなさにワイドボーンが不快気に鼻を鳴らした。
「気にしないでください」
その腰をゆっくりと叩いたのは、アレス・マクワイルドだ。
そんな彼もまた、初めて真正面から見る同盟の英雄に緊張を隠せないでいる。
だからといって、緊張感のないヤンに対してアレスが思うところはなかった。
元々ヤンは軍人として栄達を望んでいるわけではない。
無事に十年を務めあげて、年金をもらいつつ第二の人生に期待しているのだ。
原作では戦わざるを得ない状況へとなったが、いまだに帝国とほぼ互角の戦いをする現状では、彼がやる気がなかったとしても不思議ではない。
むしろ目立つことの方が嫌なのかもしれなかった。
けれど。
彼の魔術師ヤンと戦う機会など、ここを逃せばない。
小さく拳を握るアレスに、ワイドボーンが笑みを作った。
「ふん。余裕があるのは今のうちだと教えてやろう」
あげられた拳に、アレスが拳を重ねた。
小さく鳴った音に視線が集中する中で、ゆっくりと筺体に向かう。
その姿をヤンの隣にいた男が、ちらりと横目で自らのチームリーダーを見る。
「あちらはやる気は十分の様ですね」
「ああ。ま、無様な戦いだけは避けよう。立場が逆の様な気がするけどね」
いまだおさまりつかない髪を撫でて、ヤンは小さく呟いた。
+ + +
観客席に備え付けられた一際豪華な長机。
審査委員長と書かれたプラカードがおかれ、その隣には審査副委員長の文字があった。
シドニー・シトレ学校長とマイケル・スレイヤー教頭が席を並べて座っている。
その前に座るのは教官たちだ。
誰もがこの戦いを前に興奮している。
学生ではないのだから、一言言った方がいいだろうかと、スレイヤーが隣を見れば、当の学校長ですらどこかそわそわとしている。
渋い顔をして、スレイヤーがため息を吐いた。
「あなたが焦れてどうするのです」
「あ、いや」
指摘をされて、どこか恥ずかしそうにシトレは咳払いをした。
おかれたコーヒーを口にして
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