決戦前
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れより、リシャール」
「ん?」
「勝てよ」
「うん、勝つよ」
ただ真剣な声に対して、テイスティアは頷いた。
サミュールは満足そうに笑う。
「じゃ。今日は早く寝ろ――これは没収だ!」
「ちょ、ちょっと!」
テイスティアの卓上からノートをかっさらい、サミュールは身軽にベッドによじのぼる。
困ったように、テイスティアも笑い――ゆっくりと電気を落とした。
星灯りがカーテン越しにゆっくりと差していた。
+ + +
一人っきりの寝室で、キーボードの音だけが鳴り響いていた。
五学年からは、共同部屋の半分ほどのスペースでしかないが、個室が与えられる。
マルコム・ワイドボーンは制服のままの姿で、キーボードを叩いていた。
画面に映るのは、以前――ヤンの手によって、ワイドボーンが負けた試合だ。
それは今まで一切見る事がなかった試合。
天才だと思っていた自分に――それも正面からの戦いではなく、土をつけられた。
何かの間違いだと見るのをやめていた、それをワイドボーンは見続けている。
天才の自分でも勝てない人間がいる。
それに気づいたからこそ、見る覚悟が出来た。
そして、理解ができた。
「俺の負けだな。これは」
艦隊決戦では負けなかった。
だが、補給路が崩されている。
制限時間があったために、途中で終わってしまったが、それでもこれを続ければ、予測されるのはエネルギー不足による艦隊の崩壊だ。
結果としては、あと一時間もすれば有意であった艦隊決戦もひっくり返されてしまっただろう。
その前に相手を叩く事ができただろうか。
その思考に対して、すぐに無理だとの回答が頭の中で帰ってきた。
艦隊決戦ではあるが、ヤンはおそらくは本気ではない。
こちらの補給を速く崩すために、あえて受けている節がある。
補給路を寸断されたいま、彼が加減をする必要はないだろう。
「嫌らしい奴だ」
こちらの心を見据えるかのような動きに、ワイドボーンが苦い顔を浮かべる。
アレス・マクワイルドが過剰に反応する理由も、理解できる。
強い。
おそらくは自分一人であれば、勝てないかもしれない。
だが、そんな考えを唇の端で笑って、キーボードを操作した。
画面が切り替わり、映るのは再び自分が負けた試合だ。
今まで何十回と何百回と見続けてきた試合でもある。
自分が加減をしたわけでもない。
それでも完膚無きまでに叩き潰された。
艦隊運動や戦術が決して劣っているわけではない。
だが、まるで詰将棋のように敗北するべく敗北した。
自分は天才だ。
それはいまも変わらない思いがある。
だが、その天才よりも遥かな高みにいる二人が戦う。
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