同期のバゲット
[4/4]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
帝の意図を内々に聞き知っているオーベルシュタインは、思わずそう付け加えたい衝動に駆られたが、辛うじて色の薄い唇の奥へ隠すことに成功した。
手を離すと、頼もしい僚友へ一礼して踵を返す。
「待てよ。どうせ軍務省に戻るのだろう。缶コーヒーの一杯くらい、礼に奢らせろよ」
マントのない元帥服の後ろ姿へそう呼びかけたが、かつての同期生は足を止めることなく右手を軽く振ってみせただけで、ケスラーからその表情を伺うことはできなかった。
「礼を言いたいのはこちらの方だ」
出口のない堂々巡りの思考に悩まされていた自分が、僚友との何気ない会話で、青空を一人眺めるよりも爽快な気分になった。だから、礼を言うとしたら自分の方なのだと思う。
後ろを歩く僚友の足音を聞きながらオーベルシュタインはそう独りごちると、戻ってから着手せねばならない職務を勘定しつつ、徐々にその意識を平常に戻して行った。
頭上に広がる雨雲が、帰りを急ぐ二名の軍人の肩に、ぽつりぽつりと鼠色の雨を落とし始めていた。
(Ende)
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ