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銀河英雄伝説<軍務省中心>短編集
同期のバゲット
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意味があったということだ。どうだ、理解できたか?」
ふんと、肯定とも嘲弄とも取れる相槌だけが返り、ケスラーは肩をすくめて息を吐いた。
「せっかくの青空だ。そのような理屈を捏ねて時を費やすのは、勿体ないというものだ」
オーベルシュタインがそう言って背伸びをしたので、ケスラーは思わずくすりと笑った。
「卿らしくない言いようだ。そもそも余計な理屈を捏ね出したのは卿の方だろう」
「……極端なのが私の悪い癖なのであろう?」
冷たい真顔でそう言い放つ同輩を見やり、ケスラーはまた笑みをこぼした。その真面目で揚げ足取りの台詞が、彼なりの冗談なのだと理解していたからである。
「しばらく顔を合わせることもなくなるな」
吹き抜ける風に冷たい湿気が含まれてきたような気がして、ケスラーは雲行きを眺めた。遠く西の空に黒雲が漂っている。
「そうだな」
オーベルシュタインは関心なげに応じてから、パンの紙袋を手に取り、中から小さめのバゲットを取り出した。左手でバゲットを握ったまま、右手で紙袋を同輩へ投げる。ふいに飛んできた袋を容易く受け取ったケスラーは、袋の中身を確認して首をかしげた。
「卿の昼食ではないのか」
中にはオーベルシュタインが手に持っている物と同じバゲットがひとつ入っていた。
「私はもう十分だ。胃袋に余裕があるようなら卿が処分してくれ」
無味乾燥な顔と声で、オーベルシュタインが答える。しかしながら、作りものの瞳がいつもより真っ直ぐとこちらを見ているような気がした。
「珍しいじゃないか。どういった心境の変化なのか伺いたいものだ」
からかうように問うと、たった今までこちらへ向けられていた碧い瞳が揺れて、ちらりと逸らされる。不思議なことに、人工物であるその目も、巧みに持ち主の感情を表すようだ。
「……たまたま気が向いただけのことだ。大した意味はない」
背けられた横顔が、微かに下を向く。半白の前髪が風に遊ばれてふわふわと靡き、細い右手が鬱陶しそうに掻き上げた。
それからは何も語らず、二人で並んだままバゲットを胃の中へ納めた。西にあった雨雲が、徐々に二人の頭上へと差し掛かってくる。ケスラーは立ち上がると、オーベルシュタインへ敬礼を向けた。
「貴重な休みに邪魔をしたな。……息災でいろよ」
柔和な笑顔を浮かべ、右手を差し出す。まもなくオーベルシュタインは、大本営の移転によってフェザーンへ赴くことが決まっている。一方のケスラーは帝都防衛司令官としてオーディンに残留となり、彼らが顔を合わせるのは当分先のこととなるに違いなかった。
「ああ。卿も」
差し出された僚友の手に自分の右手を重ねて握ると、オーベルシュタインは口角をほんの少し上げて両目を細めた。そう遠くない将来、新銀河帝国の帝都はオーディンではなくなり、憲兵総監もフェザーンへ移ることになるだろう。皇
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