暁 〜小説投稿サイト〜
銀河英雄伝説<軍務省中心>短編集
同期のバゲット
[2/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
って、河原の方へと視線を移した。
「何を見ていたんだ?」
凍てつくような作りものの瞳を寸分も動かさない同輩は、どこかその冷たさの中に普段と違うものを含んでいるように見える。もっとも、こうして土手の上で寝そべっている時点で、およそ日頃の軍務尚書とはかけ離れているのであるが。
「ほう、なぜ『見ていた』と思ったのだ」
ぐるりと首を回してケスラーの方へ顔を向け、オーベルシュタインが興味深げに問う。その仕草がやはり彼らしくないように思えて、ケスラーは僅かに眉を寄せながら答えた。
「さて、なんとなくな。卿が一点を見つめているような気がしたからだ」
その言葉にオーベルシュタインは明らかに片眉を上げたが、音声には出さず再び空を見上げると、大儀そうに大きく息を吸い込んだ。河原の方からひんやりとした風が吹き上げてくる。オーベルシュタインは軽く身震いしてから体を起して、ケスラーと同じ川の流れに目をやった。
「俺が尋ねるべきことではないかもしれんが、何かあったのか」
憲兵総監の控えめな問いにも、オーベルシュタインは視線を動かさず、滔々とした水の流れを漠然と眺めているようだった。
「……言わぬ、か」
フッと息を吐く僚友に、無表情のまま小さく、「必要あるまい」とだけ答える。
「卿は昔からそうだ。必要か、必要でないか。意味があるのか、ないのか。二極化して物事を考えすぎるのが卿の悪い癖だと、俺は常々思っていた」
ケスラーが感慨深げに呟くと、ようやくオーベルシュタインはかつての同期へと視線を投げかけた。その目は当然のことながら何の感情も湛えず、頬と口周辺の最低限の筋肉のみが嫌々ながら動く。
「必要かそうでないかは、判断材料として重要な問題であろう。私は余計な話で自分と相手の時間を無為に浪費しようと思わぬだけだ。卿とて、部下に不要な仕事をさせはすまい」
身も蓋もない正論を凍った唇から吐き出すのは、やはりドライアイスの剣と渾名される軍務尚書その人である。だがケスラーはかぶりを振った。
「確かに卿の言いようは正しい。だが、時に必要でないことをすることが必要になることもある。そう言いたいだけだ」
同輩の言葉に、オーベルシュタインは眉根を寄せた。
「異なことを言う。それは結局のところ、必要なことなのであろう。そのような持って回った言い回しをする意図が私には掴めぬ」
その反応は如何にもオーベルシュタインらしくて、ケスラーは思わず苦笑した。
「ああ、そうだろうな。卿には分からぬかもしれん。だが、そうだな。卿はなぜこんなところで空を見上げていたのだ?俺には皆目見当もつかんが、卿自身も論理的説明はできぬだろう」
ああ、と、小さく肯く声がある。
「だが、卿にはそれが必要だったから、ここにいたのだろう。そういうことだ。それと同様に、卿には不要と思われる質問も、俺にとっては
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ