第一物語・後半-日来独立編-
第四十九章 その意志の強さ《2》
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西貿易区域だ。
最終目的地点である解放場へと向かうため、彼は急ぎ向かって行く。
時折吹く、塩の香りが混じった風を浴びながら。
制服のポケットには、一本の短刀が入れられており、太陽光でそれが鈍く光っていた。
徐々に彼の姿は遠くなり、木々によって姿が完全に見えなくなったのを。かの村に一人いる、八頭は見た。
何処か心配そうな、しかし眉を立てたしっかりとした表情をしていた。
かの村は、彼にとっての故郷だった。
しかし今はもう、かの村と言う場所は存在しない。
そこには前代の委伊達家の家族が、次女を残して鎮魂されているからだ。
故郷も失い、愛する者も失った。
だが、彼女のことは恨んでいない。
何故ならば、愛する者が生きていた頃に言われたのだ。
『あの子は一途だから、一度得た愛も、苦しみも、悲しみも、ずっと背負おうとするの。そこが父親そっくりなんだけど、まだ年相応の精神しか持ち合わせていない。
だから、もし私に何かあったら――あの子をお願いね』
まるで自身が死ぬことを予知していたようだった。
もし、家族が一人でも生きていたならと思う時もあるが、それは現実逃避なのだろうか。
愛する者に頼まれても、結局彼女を救い出すことは出来無かった。
自分では駄目なのだと、何時の日か思うようになった。
そんな時に、日来の長が彼女を救いに来るという知らせを聞いて思わず立ち上がった。
彼女を愛してくれる第三者が、まだいたのだと。
嬉しさと同時に不安も感じたが、今日彼を見て思った。
「あいつも、奏鳴と同じものを感じるな。……いや、少し違うが」
産まれも育ちも違うのだ。
まるっきり同じとはいかない。
似ているが少し違う。その少しの違いがなんなのか分からないが、違うと感じた。
一人いる八頭は、東に行った日来の長とは逆。西へと歩き出す。
茂みに当たるが構わない。
掻き分け、割って入るように進んで行く。
木漏れ日が地面を照らして、鮮やかな緑を見せる。
人通りが全くと言っていい程無いためか、草が生い茂り、緑のじゅうたんをつくったのだ。
その上を歩き、進んだところ。
まだ離れているからよくは見えないだろうが、一つの墓石がある。
加護によって守られた、真新しい墓石が。
その墓石には委伊達家之墓と彫られている他、墓の右側面には縦書きでこう彫られていた。
――娘を守ると誓います。
何時の日か、この世から娘の魂が離れたのならば、この墓を壊し、家族共々委伊達家の墓に埋葬します。
委伊達の雄姿は、我らが胸のなかに。
辰ノ大花一同――
両親は生前、墓に入る時は家族揃ってと言っていた。
それまではただ石を積み重ねたような、ちんけな墓に
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