第六章
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第六章
「御名前は聞いていますね」
「ええ、近々ここに来られるとは」
その初老の男はこう彼に述べた。
「聞いていましたが」
「今日とは思われなかったのですか」
「それも今だとは」
こうも言うのであった。
「思いませんでした」
「そうでしたか」
「あの事件のことですね」
彼は速水にさらに問うてきた。
「そうですね」
「はい、そうです」
「わかりました。それではです」
ここで彼は応えてきた。そのダーウブラウンの重厚な席から立っていた。見れば白っぽい壁の後ろには海の絵が描かれている。重い油絵である。そして男から見て右手には日章旗があり左手には棚があってそこに様々なトロフィー等が見える。そんな部屋だった。
その部屋の中で。彼は静かに名乗ってきた。
「横須賀地方総監の伊藤実篤です」
「伊藤さんですか」
「階級は将補です」
階級も告げてきた。
「以後お見知りおきを」
「わかりました。それでは総監」
彼は伊藤をこう呼ぶことにしたのであった。それをすぐに言葉に出してもみせた。
「事件のことですが」
「それですね」
「詳しいお話をお聞かせ下さるでしょうか」
「はい、それですが」
伊藤はそれに応えてであった。その話をはじめるのだった。それは実に奇怪な話であった。
「まずはです」
「事件はどういったものだったのでしょうか」
「はい、それです」
伊藤はその事件について話すのだった。
「これが奇怪なことにです」
「奇怪な事件だからこそ私が呼ばれたのですね」
「答えとしてはその通りです」
まさにそうだという伊藤だった。
「それはです」
「それは?」
「ある護衛艦の乗組員が急に失踪しました」
話はそこからはじまった。
「そうなればどうなるでしょうか」
「まずは艦内を捜索することになりますね」
速水も話を聞きながらそのことを述べた。
「自然として」
「はい、その結果艦内にはいませんでした」
「では外に」
「そう、彼は外で見つかりました」
伊藤はまた話した。
「外で。しかも海の中で見つかりました」
「海で、ですか」
「そうなのです。首は百八十度後ろに捻られ両手も両足もその様にされて死んでいました」
「ふむ。自衛隊の基地内で起こった死に方にしては」
「おかしいと思われますね」
「人間をその様に捻じ曲げるとなるとです」
速水は伊藤の説明を聞きながら静蚊に述べた。
「普通の人間の力では無理ですね」
「しかも何かの機械や動物の力が使われた形跡もありません」
伊藤はこのことも言い加えた。
「その場合もです」
「なかったのですね」
「はい、ありませんでした」
それもなかったというのである。
「少なくとも一切触れずにそうしてその隊員を捻って殺
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