アインクラッド編
その日、言うなれば――
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世界に怯えて腐っていくくらいなら、憎みながら全力で戦い続ける……。死ぬことよりも俺はこの世界に負けることの方が怖い、だっけ……?」
一瞬、アスカはキリトが何を言っているか理解できず――そして思い出し、目を見開いた。
それは、アスカが第一層でキリトと出会い、初めて自分の心の内を晒した時の言葉だった。
「……よく、覚えてたな」
自分でも曖昧になってきているような目標であったため、驚きはひときわ強かった。
「そりゃわたしは随分と適当な返答しちゃったからな」
そう言われれば、そうだった気がする。
だが、実はあの時アスカがおうむ返しのようにキリトに問いかけたのに特に理由などなかった。何となく、気になった程度だが今さらそれを伝える必要もないだろう。こうして既知の間柄となった今、実に今更なことだ。
「……この世界には負けられない」
ぼそりと呟く。
そうだ。そうだった。そうだったはずなのだ。
アスカの行動原理はこの言葉からきていると言っても過言ではなかったはずなのだ。
全ての感情を押し殺し、結城家に相応しい、母親の望むような《勝ち組》の人生を歩むこと。
そのためだけに全てを捨てて、競争社会を勝ち抜けてきたのだ。
それはこの世界でも変わらない。
現実世界での自分が壊れたのは死を意味する。ならば、この世界で怯え、この世界にまで負けて、自分が生きる意味が壊れる事だけは死んでも嫌だった。
だから、死んでも構わなかった。全てのモンスターに挑み、剣を構え、刃を突き立て、倒し、殺す。
そして負けた時こそ自分の命が尽きる時なのだ。それまでは決して負けるわけにはいかない。――ただのデータの集合体であるこの世界に。
だが、それもこの目の前の少女やこの一年以上の戦いの中で変化していた。いや、ぐちゃぐちゃに混ざり合っている、と言った方が適切か。
自分の意志で動かず機械のように日々を過ごす現実世界での生活と、所詮は仮想データの集合体でしかない世界での血盟騎士団、月夜の黒猫団やクライン、エギル、それにリズやキリトと戦い、生き抜く自分で選び取った生活。
親の言いつけ通り機械的に食べていたオーガニック食材のコースメニューと、脳に電気信号を送り込み、満腹感だけを与える、それでいて口に唾が湧くほど食べたいと思ったクリームパンや試行錯誤した自分の手料理。
そして、何も目標を持たないまま学弁に勤しみ机にかじりついていた日常と、この世界からの脱出の目標を掲げて自分の意志で剣を振るう日常。
その違いは本当に単なる《仮想世界》と《現実世界》だけなのだろうか?
どっちが《偽物》でどっちが《本当》か?
脳の理性を司る部分からは一年半前と変わらない、冷静な声
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