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豹頭王異伝
暁闇
ゴーラ王の憂鬱
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 実の処ゴーラ軍の密使や伝令は只の1人も、マルガへは到達しておらぬ。
 何度も放たれた伝令達は魔道の結界に捕捉され、ゴーラ軍から離れた直後に拘束。
 グラチウスの催眠術、催眠暗示命令を受け昏々と眠り続けている。
 本物の記憶を完璧に封印された不運な伝令は、何も疑う事無く魔戦士の前に出頭。
 新生ゴーラ王国の最高指導者、炎の破壊王に《マルガ周辺の状況》を報告する。

「何だとぉ?
 リリア湖の上空に光輝く船、正体の知れぬ幽霊船が浮かんでるだぁ?
 馬鹿な事、言ってんじゃねえ!
 昼間っから、酒でも飲んでやがるのか!?」
 自分の事は棚に上げ、ゴーラ王イシュトヴァーンは伝令を怒鳴りつけた。
 マルコも下手に刺激してはならぬと口を噤み、暗雲が陣幕に立ち込める。

 口には決して出さぬが実の所、全く計算外だった。
 途中までは結構、上手く行っている様に見えたのだが。
 ダーナムに参戦し聖王側の正規軍、ベック公の率いる聖騎士団を蹴散らした。
 ゴーラ軍が大歓声を浴び運命共同体の待つ拠点、マルガへ入城を果たす。
 ナリスの前に颯爽と登場する筈だったのだが、読みは見事に外れた。

 パロの人々には嘗ての征服者ヴラド大公、五色騎士団に占領された屈辱が根深い。
 新生ゴーラ王国は旧ユラニア大公国が母体、モンゴールとは縁も所縁も無い新興国だ。
 クリスタルを襲った黒騎士団とは全く関係無い、と散々口を酸っぱくして説いたのだが。
 パロ人の反応は冷たく、黒竜戦役の記憶は簡単に払拭出来るものでは無いと思い知らされた。
 ダーナム防衛軍の指揮官、ルナン聖騎士侯も露骨に内心を表明。
 御座なりに謝礼の言葉を述べると早速、浅手の負傷を理由に姿を消した。

 副官は撃退された敵軍の逆襲が予想され、ダーナムを離れる訳には行かないの一点張り。
 ダーナム市民は一応歓迎してくれたが、食糧や医薬品は底を尽いている。
 とりあえずは命の恩人であるから、罵詈雑言は浴びせずに我慢するが。
 一言で言えば、早く出て行ってくれ。
 口に出しては言わないが、そんな空気が露骨に漂っていた。

 イシュトヴァーンも流石に無言の抵抗、沈黙の壁を流血の惨事で破壊する事は控えた。
 物事は自分に都合良く運ぶとは限らない、と悟らざるを得なかった。
 いや、充分、わかってはいたのだ。
 神聖パロ決起の際、ゴーラの新都には一言の連絡も無い。
 何度も密偵を送り込んだが、全く返事を寄越さなかった。

 他の者ならば手違いが有るかも知れぬが、運命共同体は魔道師の総元締め。
 クリスタル大公アルド・ナリスに限って、間違いは有り得ない。
 イシュタールを出発する遙か以前の時点から、判明していた冷徹な事実を。
 誰よりも良く理解していたのだ、断じて認める訳
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