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豹頭王異伝
暁闇
ゴーラ王の憂鬱
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には行かなかったが。

(ん、待てよ?
 どっかで聞いた様な気がするけど、気のせいか??
 光の船、だって?
 なんか、引っ掛かるな。
 妙に気になるな、何か忘れてる様な気がしやがる。
 そんなもん、見た事ある筈ねぇよなぁ…)

 不意に、脳裏へ甦る光景があった。
 遙か南方、レントの海。
 海賊船《ガルムの首》。
 手すりに立ち、嵐の吹き荒れる夜の海に身を投じようとする豹頭の戦士。
 逆風にも関らず、自由自在に海上を疾駆する謎の物体。
 唐突に姿を消した、帆も櫂も無い《光の船》。

「おい、もう一度言え!
 初めっからだ、お前の仕入れて来た噂を全部言いやがれ!!
 《光の船》が一体全体、何故今頃になってマルガなんぞに現れやがったんだ?
 それで今、《光の船》はどうなってるんだって??」
 苛々した空気を吹き飛ばし、一気に豹変を遂げた嵐を呼ぶ男。
 イシュトヴァーンの真剣な眼差しに、マルコも伝令も眼を丸くした。

「は、はい。
 申し上げます!
 リリア湖上に昨日突然、光る船の様な物体が現れました。
 湖の中の小島に接岸の後、姿を消したそうです。
 クリスタルに拘束されていた筈のリンダ王妃、カラヴィア公息が光る船から現れたとか。
 聖王アルド・ナリスは3日後、治療を終えて皆の前に現れると噂されています」

 この密偵は偽りの記憶を与えられ、送り返されたに過ぎぬのだが。
 知らぬが仏の本人は哨戒線を潜り抜け危ない橋を渡り、己の眼と耳で確かめたと確信。
 闇の司祭は芸術的な手腕を披露、記憶の途切れは無く整合性も完璧。
 続きが有るか確かめようともせず、話を横取りする赤い街道の盗賊。
 吟遊詩人の噂話を横獲りする冒険児、イシュトヴァーンの面影が甦り若い顔が輝いた。

「ってこたぁ、ナリス様が明後日にゃ戻って来んだな!
 こんな貧相な街に用は無ぇ、マルガへ向かうぞ!!」
 苦虫を噛み潰した様な貌が豹変、明朗闊達に破顔する魔戦士。
 数々の実績を誇る問題児、イシュトヴァーンの暴走を懸念する実質的な新生ゴーラ運営者。
 カメロンの信頼厚い忠実な副官、海の兄弟は安堵の溜息を吐いた。

「未だ、ベック公軍は撤退していません。
 補給路を断たれる可能性は、ありませんか?」
 オルニウス号の元水夫長マルコ、提督の代理人《エージェント》は期待に応え暴れ馬を牽制。
 万一に備え最悪の事態を想定、不案内な異国の地から脱出する逃げ道の確保を暗に勧める。
 自信満々の風雲児は聡明な副官の配慮に気付かず、豪快に笑い飛ばした。

「ナリス様の調子が悪かったから返事が来なかっただけさ、そんな心配は要らねぇよ!
 光の船とやらから出て来る時、ナリス様の御前に新生ゴーラ軍3万を整列させて出迎えてやる。
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