参ノ巻
陸の魚
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「高彬どのっ!」
耳元で強く名を呼ばれて、僕ははっと我に返った。
「しっかりしろ!魂を飛ばしている場合じゃないだろう!」
両肩を揺さぶるように叱咤されて、しかし僕はのろのろと声の主を見た。速穂児とか言う・・・。
「医を・・・!」
僕は叫びすぎて嗄れた喉で、反射のように何度繰り返したかしれない言葉を言う。
「来る。すぐに」
速穂児は短くそう言うと、僕の腕の中を見て、顔を険しくさせた。
僕はつられて下を見て、どきりとした。
・・・瑠螺蔚さん。
血だらけの瑠螺蔚さん。その目蓋が、重く閉じられている。
嘘だ。
こんなのは、嘘だ。
嘘、そう嘘でなければならないんだ。
・・・こんな。
僕が動揺して身じろぎした拍子にだらりと首が傾く。
瑠螺蔚さんの、首が。
「いやあああああぁあああっ!」
空を劈くような悲鳴が響き渡った。
「っおい!」
見ると、崩れ落ちた由良を素早く速穂児が支えていた。瑠螺蔚さんを見て、失神してしまった由良を。
こんなのは、嘘だ。いや、嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ・・・。
瑠螺蔚さんが、死ぬ訳は、ないじゃないか。
「おい、もっと急げ!若君!医を連れてきました!」
その声に、背を振り返るよりはやく、意識がゆらりと潰えた。
後から振り返れば、このときの僕は動揺しきりで、それまで散々瑠螺蔚さんに偉ぶって説教を垂れてたわりに本当に情けないものだったと思う。本当に大切なものは、失って初めてその価値がわかるものだ、ということを自分の身になってやっと痛烈に実感していた。
夢さえ僕の心情を表しているかのように暗闇だった。ひとり膝を抱え蹲りながら思う。
大丈夫だ。大丈夫。瑠螺蔚さんが、死ぬ訳はないじゃないか。
僕は自分に言い聞かせるように、そう考える。しかしそれに反するかのように手が異様なほどぶるぶると震えていた。瑠螺蔚さんを抱え支えていた方の腕だ。おさまれ。僕は何を恐れているんだ。瑠螺蔚さんはきっと無事だ。無事に決まってる。
幼い頃から死は身近だった。経験と言う黄泉神が僕の耳に口を近づけそっと囁く。「本当は、おまえも、わかっているだろう?」と。僕はそれを拒絶するように大きく首を振る。
いいや、わからない。わか
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