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戦国御伽草子
参ノ巻
陸の魚

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宗殿・・・なぜ、いや、まず顔を・・・」



「高彬どのっ!」



 僕の声をかき消すように、忠宗殿の裏返った声が真っ直ぐに届く。その声ははっきりと涙に濡れていた。僕は狼狽えた。



「瑠螺蔚を心より愛して下さったこと、この忠宗、父として、心より、心より御礼申し上げる!」



 額を畳に擦りつけんばかりにして、忠宗殿は叫ぶ。



「あれほどまでに真の心で瑠螺蔚を望んでくださったのは、後にも先にも、高彬殿だけじゃった。例え祝言を挙ておらずとも、その心は高彬殿と夫婦になったと、瑠螺蔚は幸せだったと・・・儂は信じておる。この戦の世。誰がいつどこで命を落とすことになってもおかしくない。瑠螺蔚も前田の一の姫として覚悟をしていただろう。だから・・・高彬殿は決して後悔召されるな」



 僕の足が思わず一歩後ずさる。瞳が燃えるように熱い。忠宗殿、と言おうとしたが言葉にできず空気だけが僕の口から漏れた。



 後悔?後悔なんてしているに決まっているんだ。僕が、あのとき、もっと疑っていれば。毒味をするべきだった。苦しみながらも瑠螺蔚さんは僕の毒杯を払いのけた。あんな状況で、僕のことを気遣ってくれたのだ。瑠螺蔚さんは、そう言う人だ。昔から、そう言う人だった・・・。



 ・・・瑠螺蔚さん。



 僕は手で口を覆った。震える唇を噛みしめて堪えようとしたが無駄だった。ひとつ零れれば、あとは堰を切ったように涙は溢れた。



「高彬殿、酷なことを言うようかもしれんが、瑠螺蔚を連れて行ってもいいだろうか。前田の墓へ、葬ってやりたいのだ。あそこには俊成(としなり)(らい)もあやめもいる。瑠螺蔚も寂しくなかろうて」



 それに僕がどうして反論できようか。忠宗殿も、僕には決して頭が上がらない本当に立派な人だ。前田家が焼けたが故に佐々家に預けられていただけの瑠螺蔚さんを連れ帰るのに本来僕の許可など全く必要ない。なのに僕の心情を(おもんぱか)って、こうして聞いてくれる。



 蕾殿も俊成殿も忠宗殿も瑠螺蔚さんも、みんなみんな、素晴らしい人達なのだ・・・なぜ、そんな人たちが我先にと死ななければならないのだろうか。この世は無常だ。なにもかも。



「瑠螺蔚さんも、その方が喜ぶでしょう。・・・忠宗殿、顔を上げて下さい。わたしに謝ることなど、貴殿には何一つ無いはずではないですか。このままでは、僕が瑠螺蔚さんに叱られてしまいます」



 素直になってしまえば、離れがたい。認めたくない。別れたくない!この気持ちは偽らざる本心で有り、同時に僕の自己中心的でしかない我が儘だ。しかしそれを誰が責められる?僕は、瑠螺蔚さんのことを、本当に、本当に・・・。



「・・
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