参ノ巻
陸の魚
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ってたまるか。
瑠螺蔚さんのことだ、もしかしたらこれは僕をからかっているだけなのかもしれない。
僕が取り乱して泣いているのを見て、「あー、ごめんね、嘘よ嘘。ちょっと驚かせるだけのつもりで・・・まずいなやりすぎちゃったかな・・・」とか言いながら、ばつの悪そうな顔でひょっこり出てくるつもりかもしれない。
それならもう、いいから起きて。この一瞬でもはやく起きて僕を安心させてくれ。瑠螺蔚さんは死んでなどいないと。
いきすぎた悪戯も今なら怒らない。怒らない、から・・・。
ふっと短い夢から醒めた時、寝起きとは思えないほど僕は冷静に状況を把握しようとしていた。
僕は見慣れた自分の室で横になっていた。開かれていた障子から、日の高さをはかる。薄暗い夜明け。それほど長く眠ってはいなかったようだ。
「・・・瑠螺蔚さんは」
「あいつの、部屋に」
僕がぼそりと言うと、隅の影にとけるようにしていた速穂児が小さく答えた。感情を伺うことができない声だった。速穂児はそれだけ言うと、用は済んだとばかりに音も立てず部屋から出て行った。僕はそれに頓着することなく、暫く日が昇ってくるにつれ細く狭くなっていく影をみていた。
瑠螺蔚さんは、瑠螺蔚さんの部屋に。
その言葉をゆっくりと噛みしめ、起き上がると、僕は身支度を調えた。
夜の間に冷えた濡れ縁が、一歩踏み出す度に音を立て、それは早く行けと急かしているようにも、やめろ行くなと引き留めているようにも、どちらにも聞こえた。
瑠螺蔚さんの部屋に近づくにつれて、悲痛な声が聞こえてくるようになってきた。
「こんなの、嘘です!嘘ですわっ!私、信じませんっ!」
「瑠螺蔚さまの嘘つきっ!ずっと、私の味方だと、言って下さったではないですか・・・」
「離しなさい!私を放って置いて・・・瑠螺蔚さまのお傍にいたいのです!」
「瑠螺蔚さま、瑠螺蔚さま・・・」
すすり泣くその声が、否応なしに受け入れたくない現実を突きつけてくるようで・・・僕は止まりそうな足を無理に動かす。
「・・・僕だ。入るぞ、由良」
最初から返事は期待していない。障子に手をかけ、僕は一気に開け放った。そして息が止まった。
部屋の中央には人が布団にくるまれて横たわっていた。顔はここからよく見えない。その胸の上には短刀があり、それに取りすがるように由良がいる。そしてもう一人。
瑠螺蔚さんの父、忠宗殿が、肩を震わせ、障子を開け放った僕に向かって平伏していたのだった。
「忠
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