第百三十八話 羽柴の帰還その五
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「高田殿ですか」
「覚えておくとよいと思うでおじゃる」
「わかりました、では」
「さて、それではまた戦でおじゃるな」
「そうなるかと」
このことはもう誰もがわかっていた、浅井朝倉との戦はこの退きではないことが。
それでだ、次の戦もだというのだ。
「ただ。一旦三河に戻ります」
「そうしてで、おじゃるな」
「また出陣します、ただ」
「しかしでおじゃるな」
「暫く息抜きをしたいと思っています」
こう言うのだった、幼い頃からの友に。
「そう思っています」
「ふむ。そうするでおじゃるか」
「それで氏真殿はどうされますか」
「まあ麿はここに屋敷も建てたしのう」
「ではここにおられますか」
「そうしようと考えているでおじゃる」
こう家康に答える。
「今は」
「左様ですか」
「父上も出家されて馴染まれた、ではじゃ」
「都に残られてですか」
「麿は暮らしていこうと思っているでおじゃる」
これが氏真の選んだ道だった、駿河にいられなくなったがそれでも彼は自分の道を見つけた様である。
その彼がだ、こう言うのである。
「和歌に蹴鞠に」
「そうしたもので」
「楽しみながら過ごすとするか」
「そうされますか」
「もう駿河に戻ることもあるまい」
武田が治めている、若し武田がその国から去ってもだというのだ。
「それではな」
「宜しければ当家に来られますか」
家康は氏真に誘いをかけた。
「そうされますか」
「それで貴殿と共にか」
「客人として。暮らしませぬか」
「いやいや、それはいいでおじゃる」
氏真は笑って家康のその誘いを断った、そのうえで言うのだった。
「それは何か悪いでおじゃる」
「遠慮は無用ですが」
「いやいや、そうはいかぬでおじゃる」
氏真は家康の申し出にここはいつもの気品がありながらも飄々とした感じではなく真面目に返す。
「麿も節操というものがあるでおじゃる」
「だからですか」
「禄はもう貰っているでおじゃる」
織田家からだが一応独立した家として扱ってもらっている、五千石だ。
「それで家と祖母殿の面倒を見ているでおじゃるよ」
「左様でありますか」
「だから充分でおじゃる」
そうだというのだ。
「竹千代殿も大変でおじゃろう、麿のことは気にされるな」
「ううむ、では」
「とにかくでおじゃる」
また言う氏真だった。
「竹千代殿は道中気をつけて三河まで帰られて」
「そしてですな」
「戦に励むでおじゃる」
「そうさせてもらいます、では」
「茶を飲むでおじゃる」
今は、というのだ。そうした話をしながらだ。
家康は高田という公卿のことを彼の頭の中に入れた、そのうえで幼馴染みでもある氏真と再開と別れの茶を嗜むのだった。
織田家の軍勢は続々と
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