第百三十八話 羽柴の帰還その三
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「わしもあれを使うしかないわ」
「杉谷殿があれを使われるならば」
「今度こそというのじゃな」
「そう思います、では」
「暫しここを離れる」
この小谷城をだというのだ。
「すぐに戻る、その間頼んだぞ」
「畏まりました」
「浅井長政は操れぬ」
これは無理だというのだ、彼にしては。
「それでもな」
「浅井久政は違いますな」
「凡庸な者じゃ」
善住坊は久政についてはこう述べた、長政とは違うというのだ。
「我等が操れる位にな」
「だからですな」
「うむ、今はな」
こう言ってだった、そして。
善住坊は小谷城から姿を消した、だがこのことは久政ですら気付かなかった、浅井家は今闇の中にあった。
織田家の主な家臣達と軍勢も都に戻った、佐久間は都を進む彼等を見ながらそのうえで前野に対して言った。
「十万で退いた話はそうはあるまい」
「そうですな、十万の兵での戦自体が少ないですし」
「千早位か」
楠木正成が鎌倉幕府の大軍を退けた戦である、この時幕府はそれだけの兵を集めていたと言われている。
「あの戦位か」
「十万で退いたことは」
「それでほぼ無傷で帰ったことはな」
「流石にないですな」
「そうしたことを考えれば凄いわ」
「殿もご無事でしたし」
「猿達も無事な様じゃしな」
このことも既に彼等の耳に入っている。
「それではじゃ」
「まずはよし、ですな」
「うむ、またすぐに戦が出来る」
このことも大丈夫だというのだ。
「浅井家にも朝倉家にもな」
「この都からまた攻め入りますか」
「いや、岐阜からであろう」
佐久間はそれはないとだ、前野に対して述べた。
「次に出る場所はな」
「岐阜ですか」
「次の戦は朝倉家だけではない」
「浅井殿も敵だからですか」
「そうじゃ」
まさにそれでだというのだ。
「だから岐阜からじゃ」
「岐阜から浅井殿を攻めますか」
「そうなる」
「そして朝倉殿も」
「共にな、戦の場はまだわからぬが」
「やはり大きな戦になりますな」
「兵の数は同じ位であろうな」
十万程でだというのだ。
「それだけを出すことになろう」
「再びですか」
「殿は常にそうじゃ」
信長は、というのだ。
「戦は数に飯じゃからな」
「確かに。その二つがなければ」
「戦は勝てぬ」
どれ程兵が強かろうともだ、その二つがあってこそだというのだ。
「到底な」
「そして殿はそのことをよくご承知ですか」
「織田の兵は弱い」
とかくよく言われていることで佐久間も痛感していることだ、織田家の兵の弱さは天下によく知られている。
「しかし数に飯はあるからな」
「それで戦うのですな」
「そうじゃ」
その通りだというのだ。
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