第百三十八話 羽柴の帰還その二
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「そのことはな」
「では何時かは」
「手を打ちましょうぞ」
義昭の傍の二人の僧達はこう話していた、そしてだった。
小谷城の久政の下にも信長が生きているという報は入っていた、彼はその報を彼の部屋で聞いてこう言った。
「信じられぬな」
「ですがまことです」
「右大臣殿は」
「生きておってか」
「はい、都に入られました」
「既に」
そうなったとだ、紺の服の彼等が久政に述べる。
「それで殿もこの城に引き返されています」
「朝倉殿の兵も越前に帰られています」
「織田信長、あれで生きておるとは」
久政はその傍に二人の僧達を控えさせたまま述べる。
「そして軍勢もじゃな」
「ほぼ無傷です」
「そしてその家臣の方々もです」
「生きておるか」
久政は義昭と同じ顔で述べた。
「悪運の強い者じゃ」
「ですな、恐ろしいまでに」
「まさかあの状況を生きられるとは」
ここで近頃いつも久政の後ろに控えている善住坊と無明が応えてきた。
「右大臣殿は一筋縄ではいかぬ方です」
「油断のならぬ方です」
「どうすればよい」
義昭は彼等に真剣な顔で問うた。
「ここは」
「はい、まだ手はあります」
善住坊が答える、それもすぐに。
「拙僧達にお任せを」
「そうか、では安心させてもらうぞ」
「是非共」
善住坊が応えてだった、そのうえでだ。
彼等で久政を安心させた、そうして彼を彼の部屋に入らせてだった。
善住坊は無明と二人になったところでだ、こう彼に言った。
「ではじゃ」
「それではですな」
「わしが行く」
これが無明への言葉だった。
「すぐにな」
「あれを使われるのですな」
「あれはよいものじゃ」
極めてだというのだ。
「わしのあれをこれまでかわせた者はおらぬ」
「まさかあの男がこれで生きるとは」
「いや、考えて見れば十万を超える兵を浅井朝倉の三万の兵で倒すということは無理があったわ」
「兵の数が違いますか」
「それぞれ五万ずつ向けても充分過ぎる程対せた」
片方を朝倉、もう片方を浅井に向けてもだというのだ。
「普通にな、しかしあの男はそれよりももっと確実な方を選んだのじゃ」
「だから金ヶ崎では退いたのですか」
「そういうことじゃ」
それでだというのだ。
「あの男はそうしたのじゃ」
「そうでしたか」
「考えておるわ、そして退いてもじゃ」
「必ず生きる自信がありましたか」
「だからこそな」
ここでもこうした話になる。
「退いたのじゃ」
「左様ですか」
「あの者、やはり尋常な者ではない」
善住坊も今このことを噛み締めていた、それも強く。
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