第百三十八話 羽柴の帰還その一
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第百三十八話 羽柴の帰還
信長は都に戻るとすぐに帝の御前に参上しことの次第を報告した、そして公卿達の応対を後にして次に義昭の前に出た。
そしてだ、こう義昭に言った。
「朝倉への仕置、しくじりました」
「いや、それはよい」
義昭は内心思うことをよそに信長にこう返した。
「それよりも危うかったそうじゃな」
「退きでのことですか」
「大禍なく何よりじゃ」
思うことを隠して信長に言う。
「まことにな」
「有り難きお言葉」
「今はゆっくりと休むがよい」
鷹揚な動きを無理にしての言葉だ。
「疲れているであろうからな」
「いえ、暫くしたら岐阜に戻ります」
「何と、そうするのか」
「それからまた兵を整えてです」
そうしてだとだ、信長は義昭に述べていく。
「朝倉、浅井の両家を今度こそは完全に仕置します」
「浅井もじゃな」
「公方様に弓を引きました故」
朝倉との戦は幕府の名で義景に上洛を促しそれをも黙殺されたことからはじまっている、それでなのだ。
「ですからもう一度です」
「戦をするか」
「次は負けませぬ」
絶対にだというのだ。
「少しお待ち下さい」
「わかった、ではな」
義昭は信長からの挨拶を受け取った、だが。
彼を引き止めはしなかった、それで彼が二条城を去ったのを見届けてから天海と崇伝に苦い顔で述べた。
「見たな、あの顔を」
「はい、お元気ですな」
「お怪我もありませぬ」
「うむ、実にな」
こう二人に言うのだった。
「虎口にいたとは思えぬ」
「しかも軍勢も全くと言ってよい程傷を受けておりませぬ」
「後詰が幾分か程度です」
「主だった家臣の方は誰も討ち取られはおりませぬ」
「軍勢もその方々も三日程後で都に戻られます」
「ではただ退いただけでほぼ無傷ではないか」
義昭は二人の僧の話を聞いて苦い顔で述べた。
「何もならぬではないか」
「いえ、まだです」
「戦はまだ続いております」
二人は身振りも入れて残念がる義昭に対して彼を安心させる様に言って来た。
「この戦は岐阜に戻られるまでです」
「それまであります」
「そうか?もう朝倉も浅井も右大臣には何も出来んぞ」
全くだとだ、義昭は苦りきった顔で返した。
「とてもな」
「軍勢はそうですな」
「兵達は」
「しかし他の者はどうか」
「それがあります故」
「忍かのう」98
その話を聞いてだ、義昭は首を傾げさせながら述べた。
「それでは」
「まあそれはわかりませぬが」
「戦はまだ続いております」
「ですからまだです」
「落胆されることはありませぬ」
「では期待しておこう」
こう返す義昭だった。
「右大臣がおっては余が脅かされて仕方がないわ」
「はい、あの
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