第三十章
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第三十章
「どうやってもです」
「その通りですね。身体を引き千切るとなると」
「出来る筈がありません」
「それができたのですから」
「まずその時点で、です」
速水は述べていった。その核心をである。
「人間ではありませんね」
「実際に舞鶴でも噂になっています」
後藤は話をしながらその顔を曇らせてきていた。
「困ったことに」
「そうですか。やはり」
「これは月並みな言葉ですが」
こう前置きしたうえで述べてきたのである。
「人の口に鍵はかけられません」
「それはその通りですね」
「ですからどうしても噂は広まってしまっています」
「謎の怪奇事件として」
「はい、それについては口をつぐむように言ってもです」
効果がないというのである。噂というものはありとあらゆる壁を越えるものである。それを完全に封じるこということは何よりも至難なことであるのだ。これは何時でも何処でも同じことである。当然海上自衛隊においてもである。だからこそ今彼は憂いのある顔になっている。
その顔でだった。後藤はさらに速水に話してきた。
「その人間ではないとしか思えない力で、です」
「はい、その力で」
「出航中の船の中の人間を引き摺り出してです」
事件はさらに奇怪さを増していた。
「それで、ですから」
「出航中のですか」
「日本海に出ていました」
舞鶴は日本海に面している。要するにその方面の海の護りの要というわけである。そうした意味において極めて重要な場所なのである。
「新潟の方にです」
「新潟ですか」
「そこから一瞬で舞鶴に連れて行かれてです」
「それで殺されたのですか」
「殺されてすぐにです」
後藤の話は続く。
「海の中に放り込まれたのです」
「成程。それは確かに」
「現実世界の中では説明がつかない話ですね」
「そうとしか言い様がありませんね」
ここまで聞いて述べた言葉であった。
「本当に」
「それでなのですが」
また速水に言ってきた。
「今回の事件ですが」
「解決できるかどうかですか」
「はい、どうなのでしょうか」
「それについてですが」
まずはこう述べてから答える速水だった。
「御安心下さい」
「解決できるのですね」
「頭の中でかなりわかってきました」
これは実際にである。彼の頭の中ではである。
「おおよそですが」
「わかってきたのですね」
「はい、間違いありません」
こうも述べるのだった。
「これでおおよそは」
「左様ですか」
「あと」
「あと?」
「このことも申し上げておきます」
後藤に対しての言葉である。後藤はその彼の顔を期待する目で見ている。不可解な事件を解決する名探偵、今の速水はそれであった。
「この事件はです」
「この事件は」
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