第二部 文化祭
第31話 星空
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「お願いです、それだけは勘弁して下さい!」
俺は情けなくも、アスナに懇願している。
音楽追試の件はとりあえず片付いたのだが、新たな問題が発生したのだ。前に意味不明なノリで「ハゲルヤ」だの「どこかにエギルが隠れているから」だの言ってしまったので、それが災いした。
「アスナ! 頼むからアレを全校生徒に公開しようとするのはやめろ!」
「知らないわよ。君が小学生染みたことしたからじゃない。わたしの歌の譜面も、勝手にちょっとだけ読んじゃったし。……みんな聞いてー! かの?黒の剣士?様が」
「ちょっ……マジでやめろ! やめて下さいお願いします!」
「小学生以下レベルの替え歌して遊んでたのー! 内容はねー」
焦り切った俺は、咄嗟にアスナの右手を掴んだ。
「早まるな! なんでも1つ言う事聞きますから!」
「ふーん……」
アスナは得意気に微笑んだ。
「君がここまで焦るって珍しいねー。そんなに恥ずかしいんだ? ハゲル」
「って嫌だなー。冬寒そうだし!」
「……まあ、いいわ。そのかわり、お願いちゃんときいてよね」
澄ました表情で言う。
同じような笑みを浮かべる人物を、小さい頃からずっと見ていたような気がした。
──まあ、気のせいか。
「わたしと一緒に、イミテーション・タウンを歩いてほしいな」
アスナの言うイミテーション・タウンとは、文字通り、アインクラッド模擬街のことだ。
「えっと……歩くだけ?」
「そうじゃなくて、ショッピングとか……そのくらい察しなさいよバカ!」
今月何回目のバカでしょうか。
これからは、バカって言われた回数を数えることにしよう。
「……上目遣いおねだりとか。ズルいわよ、君は」
アスナの呟きはよく聞こえなかった。
──その晩。
「キリトー、アスナが呼んでるよ」
ルームメイトのユージオが言った。
──え?
まさか。
「キリトくーん!」
男子寮を出た所で、私服姿のアスナがにこにこ手を振っている。
「……なんだよアスナ、今は夜8時だぞ。子供は家にいなきゃいけない時間だぞ」
「子供なのは君の精神年齢でしょ」
「………で? 大人なアスナさんは、夜遅く男子寮になにしに来たのでしょう」
「遅くって言うほど遅くないわよ! ……それに、言ったじゃない。一緒にイミテーション・タウン行こうって」
アスナの顔は何故だか赤い。
「いや、そういうのってさ……もっとほら、外が明るい時間帯とかさ」
「あら、夜だって悪くないわよ。君も早く着替えてきてよ。その……パジャマ姿で出てきたりしないで」
「うあ、悪い。アスナが突然来たもんだから、なんか怒ってんのかなー、早く行かなきゃ刺されそうだなーと思ってさ」
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