第二十六章
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第二十六章
「とんでもないことにです」
「粗暴な人物だったのですね」
「そうした人物が自衛隊の評判を落とすのです」
語るその口調が忌々しげなものにもなっていた。
「全くです」
「その通りですね。同意します」
「それにです」
彼はその口調でさらに話していくのであった。
「品性も下劣で」
「しかもですか」
「そうです、よく大湊の人達に絡んだりものを壊していました。性犯罪の疑いをかけられたことも二度や三度ではないのです。恐喝をしていたという噂もあります」
「成程」
「トラブルと騒動ばかり起こす人物で大湊の基地でも問題になっていました」
そこまでだというのである。
「それで容疑者も実際にかなりの数でした」
「それが多いというのも困りものですね」
「従って恨みを持っている人物も非常に多く」
このこともまた同じであった。
「捜査は難航するかと思われました」
「思われました、ですか」
「しかしです」
ここで伊藤の言葉の調子が変わったのであった。
「これが思わぬことになりました」
「思わぬこととは」
速水は察していたがそれを隠して伊藤に問うた。
「それは一体」
「被害者は腹を切られていたのです」
「腹をですか」
「そうです。腹をですね」
「はい」
その殺され方の話になっていく。それをである。
「縦に斬られていたのです」
「縦にですか」
「みぞおちから臍の下までです。一気にです」
「一気にですか」
「鋭い」
「刃の様なもので」
「いえ、それが」
しかしであった。ここで伊藤の言葉が変わった。いぶかしむものになったのである。
「どうやらおかしいのです」
「おかしいとは?」
「普通の刃物で斬られたのではないのです」
そうではないというのである。
「普通腹を一気にというと日本刀やそういったものを考えますね」
「ですね。そうだと」
「ところがそうではないのです」
首を傾げながらの言葉である。
「どういった刃も使ってはいないのです」
「使っていませんか」
「はい、検死の結果それはありませんでした」
伊藤は語る。その現実をである。
「しかも背中まで一気に斬り抜かれています」
「背中まで、ですか」
「普通の刃ではありませんね」
速水にこのことも話してきた。
「そうしたことができるのは」
「斬り傷は入り口と出口で同じ大きさなのですか」
「はい、一気です」
まさしくというのである。
「一気に斬られてです。突き抜かれています」
「有り得ない話ですね」
「普通の斬り傷なら先が深く奥が細くなりますが」
「全く同じ。しかもどんな刃も使ってはいない」
速水もそれを聞いて考える顔になる。それは右目にはっきりと出ていた。それをそのまま表に出したうえで
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