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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission10 ヘカトンベ
(2) マクスバード/リーゼ港 A
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の、はて?

 ルドガーはとっさに自分の胸を押さえた。

(俺、今日まで何回骸殻で戦った? 何回、分史世界に入った? いや、俺じゃなくて。兄さんは。何年もずっと骸殻で戦ってた兄さんの因子化はどこまで進んでる?)

 ふいに抱え起こしていたユリウスがルドガーの腕を掴んだ。

「逃げろ……ルドガー、勝ち目は……」

 半分朦朧としたユリウスがルドガーに言いかける。
 胸に刺さった。自分のほうがボロボロのくせに、この兄はいつもルドガーの身をこそ先に案じる。

「分史世界を贋物として消去してきた貴様が、真実を知らぬとは。一体、何を以て真贋を見定めてきたのだ?」

 偽物。真贋。その言葉を耳にした瞬間、ルドガーの中で煮えくり返っていた感情がぴたりと治まった。

 ――“私を殺せばいい”――
 ――“最初から正史に送り込むためだけに、『造った』の”――

 リフレインする。自分が偽者だと語った彼女たちが口にした、哀しい言葉の数々。

「……る…い…」
「それとも、そこな元マクスウェルを世界の崩壊から救い、分史世界への償いは帳消しになったとでも考えたか?」
「……るさい」
「分史の元マクスウェルも、もう一人の『鍵』の娘も、所詮は貴様らクルスニクの欲望が生んだ脆い逃げ水。ニセモノの紛い物というのに」
「うるさいッッ!!」

 喉を破かんばかりの怒号を上げた。これにはユリウスもエルも、仲間たちもルドガーを凝視した。

「――、何だと」
「うるさいって言ったんだよ! ミラもユティもニセモノなんかじゃない。分史世界だろうがニセモノだとは思わない。そこで生きて、幸せだった人も不幸だった人も俺は覚えてるし、写真にだって残ってる!」

 ミラは、「ミラ=マクスウェル」でなければならないか?
 ユティは、「ユースティア・レイシィ」でなければならないか?

(違う。ちがうちがうちがう! そうじゃない。ああじゃなきゃ存在しちゃいけないとか、こうじゃなきゃ生きてちゃいけないとか。俺はそんなふうに思いたくない。今まで分史世界を散々壊した俺に言えた義理じゃないけど、でも、これが俺の正直な気持ちなんだ)

「ユティ! 兄さんを!」

 応じてユティがこちらに駆けてきた。ユティはユリウスの腕を自身の肩に回させると、立ち上がってユリウスを連れて離れた。
 ――これで後顧の憂いなく戦える。

時歪の因子(タイムファクター)化したクルスニクが分史世界を生み出す仕組みを作ったのは、お前だろう、クロノス! 死者の魂を眠らせもせずただのモノにして、『壊さなきゃいけないもの』にしたお前が、真贋なんて語るな!」

 ルドガーは双剣を構えた。今まで経験したどの戦いよりも、腸が煮えくり返っていた。
 双剣とクロノスの両腕の刃が
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