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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission10 ヘカトンベ
(1) マクスバード/リーゼ港
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ない」

 意外と、だけ余計だ、とはルドガーは言わなかった。ミュゼは機嫌を損ねると後が怖い。

「……『願い』については、社長から分史世界の消去に使えって言われてるから、いざって時に使えるか分からないんだが」
「分かってる。この中でオリジンに願いを叶えてもらえるのはルドガーとユティだけなんだ。それ以外は、僕らでオリジンに交渉してみよう。それが僕らの責任だ」

 どうやらジュードとミュゼの中で方針は固まったようだ。ルドガーは胸を撫で下ろした。


 入れ替わりに、弾んだ足取りでエルがやって来た。

「ルドガー! ミチシルベ!」
「ああ。ほら」

 ルドガーは分史対策室から預かってきた「カナンの道標」5つをエルに渡した。

 エルはジュードに五芒星の形を尋ねてから、「道標」を星形に並べてゆく。
 ついに来た。ルドガー・ウィル・クルスニクの働きの成果が形として現れる時が。
 ルドガーは密かに固唾を呑んで見守っていた。

 そして、ついに天にそれは現れた。




 ―― 一つの球体となる「カナンの道標」。
 ――大月を侵す小月。
 ――異空に開くタールのような瞼と、そこから垂れ出した毒々しい天体。
 ――闇色の胎児を孕んだ、おぞましい天球。




 カナンの地は、ここに開かれる。

 ルドガーにとって決して輝かしい成果としてではなく、空を禍々しく塗り替えるカタチで。
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