崑崙の章
第22話 「みんなぁ、ただいまっ!」
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―― 鳳統 side 漢中内城内 宰相執務室 ――
「う、んぅ……ふぅ……ん……はぅぅ……だめぇ〜」
朱里ちゃんの悩ましげな声に、傍にいた簡雍――憲和くんがもじもじとしています。
その様子に、あっと気づいて、隣にいた朱里ちゃんの肩をゆすりました。
「朱里ちゃん、朱里ちゃん……」
「はわっ!? な、なぁに、雛里ちゃん。今、ちょっと難しい部分で……」
「声、声出ちゃってる。ちょっと……へんな声が」
「は、はわっ!?」
朱里ちゃんが顔を上げて憲和くんを見ると、彼は恥ずかしそうに後ろを向きました。
「わ、私、そんなに変な声出してた?」
「うん……なんかすごく、その……卑猥だった」
「はわわーっ!?」
顔を真っ赤にして、手で覆う朱里ちゃん。
最近、疲れが溜まると出るよね……そのひとり言みたいなの。
「うう……こ、これから気をつけるよぅ」
そう言って溜息をつく朱里ちゃん。
うん……やっぱり疲れてるね。
朱里ちゃんの疲れている原因はわかってる。
今、この国の国庫は空に近いから。
ここ数日、それをどうやって捻出するかに頭を悩ませている。
「……やっぱり、巴郡の商人に資金提供を求めたほうがいいんじゃ」
「だめだよぅ……あそこは劉焉さんの、益州の土地だもん。あそこの太守の厳顔さんが……いくら盾二様のお知り合いだからって、それを頼んじゃったら『梁州の統治がうまくいっていない』という醜聞が広がっちゃうもん。それは、絶対にできないよぅ」
「でも……そろそろ宛の商人さんへの返済もあるんでしょ?」
「だからって、借金を借金で返しても意味無いよう。この街の商人さんたちは、まだお金を貸してくれるほどの体力はないし、今借りたら信用もなくなっちゃう……」
「そうだね……やっぱり特産品の『じゃがいも』を担保にして、返済を伸ばすしか無いかなあ」
私の言葉に、眉間にしわを寄せて目を閉じる朱里ちゃん。
そうだよね……本当はそんなことをしたくない。
盾二様が特産にするために送ってくれた『じゃがいも』。
それは今後、莫大な財産になるはずのもの。
そのために梁州から持ち出しには、買値の十倍以上の関税をかけているぐらいなのに。
今、梁州からこの作物を放出することは、貴重な宝を川に流すのと同じことになる。
「あ、あの……すいません。お聞きしてもいいでしょうか?」
私と朱里ちゃんが沈痛な顔をしていると、竹簡の整理から戻った憲和くんが、おずおずと手を上げました。
「はい? なんですか?」
「あの……朱里様も雛里様も、なんでそんなにじゃがいもを梁州の外にだすのを渋られるのでしょうか? あの食べ物を広めれば、飢える人がなく
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