第二部 文化祭
第30話 替え歌
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和人は言うと、再びペンを握った。
「うーん……キリト君って、こういうセンスに欠けるとこあるのよねえ……」
「ですよね……」
明日奈とまりあが呟くように言う。「聞こえてるぞ」と和人の声が飛んできた。
「一応書けたぞ」
「あ、見せて見せて」
明日奈が身を乗り出した。
──あの水平線輝くのは どこかに
「あ、地平線じゃなくて、水平線に変わってるんだ!」
明日奈が言った。
まりあは思った──くっそどうでもいいです、と。
「ええと……なんていうか、普通じゃないですか? しかも小学生レベルの……」
「ちょっと、まりあ! どんだけ俺を子供っぽい人扱いしたいんだよ!?」
「……ちょっとキリト君、エギルさんに怒られるわよ……」
そう言って明日奈が指した歌詞の内容は。
──どこかにエギルが隠れているから
「おい、キリト……」
エギルがど迫力のバリトン声で言う。
「べ、別に誰もエギルがハゲだから光るとか、エギルの頭が太陽の如く光り輝くから海に上ったり沈んだりする、なんて言ってないだろ」
「キリト君、口に出ちゃってるよ」
「心配するなアスナ、わざとだから」
「キリト君たら……」
明日奈がクスクス笑う。
和人が見えてるのは、きっと明日奈だけ。だって、妹の直葉のことさえも見えていなかったから。
──私なんて、一厘の望みだってありやしないのに。
「歌ってみたら結構イケるぞ? ほら、あのすい〜へい〜せ〜ん〜、か〜が〜やく〜の〜は〜。どこか〜にエギ〜ルが〜」
「あはは! や、やめてキリト君! 歌うとかやめて!」
明日奈がここまで笑うところを見るのは初めてだ。きっと、隣に和人がいるからだろう。
「……結構恥ずかしかったんだぞ」
「知らないわよ! 君が勝手にやったんでしょ!」
──やっぱり、お似合いだよね。
どうせ叶わない恋なら、せめて明日奈を応援しよう。里香もそうすることにしたと言っていた。
和人が明日奈の握る譜面をひょいと取った。
「ちょっとアスナの歌の譜面見せてくれよ。えーっと、あいぶねばーびーん……」
「わ、ちょっ! 勝手に見ないでよ!」
それは、明日奈の為に作った歌。明日奈が文化祭で想いを打ち明ける為の歌。
そうだ。あの歌を作った地点で、まりあがどうするべきかは決まっていたはずだ。作るだけ作って、歌詞を書くだけ書いて邪魔をしてしまうのはあまりにも無責任だし、あまりにも最低な行為だ。
解っているけど。
初めて抱く想いを、簡単に忘れられるわけがなかった。
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