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ドラクエX主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
二部:絶世傾世イケメン美女青年期
六十八話:スラリンと一緒
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…まってる……』
「そっか。じゃあ、そのまま寝ててね」


 スラリンと荷物を置いて、部屋を出ると。

 とても不機嫌そうなヘンリーが、廊下で待ってました。

「そんな、いつまでも怒ってないでよ」

 愛玩魔物(スライム)の取り合いで負けて拗ねるとか、子供か。

「……怒ってねえよ」

 これは、水掛け論の気配ですね。
 怒ってる怒ってないの。
 そんなグダグダな言い合いを、する気は無い。

「なら、いいけど。これから家に行くけど、ヘンリーも来る?」

 当然のように待ってたが、別に誘っては無かったのでね。

「おう。……スライムは、いいのか?」
「うん」
「……そうか」

 なんか若干、機嫌が上向いたような。
 そんなにスラリンといちゃつかれるのが、嫌か。
 譲る気は無いが、目の前で見せ付けるようなのは控えるか。



 家に着いて鍵を開けて中に入り、持ち込んだランプに火を灯します。

 家具の配置なんかは記憶にあるのと変わり無いけど、キレイに片付いた、片付き過ぎた。
 生活感の全く無い空間が、そこにありました。

 ……本当に、いないんだなあ。
 ここにはもう、誰も。

 一階をざっと見回し、目的のものが無いのを確認して、二階に上がります。
 ヘンリーも、黙って着いてきます。

 寝室に入り、ランプの明かりを動かしながら部屋の中を見回してみると。
 そこに、私が探していたもの。

 ベラからもらった桜の一枝(ひとえだ)が、あの日のままの姿で。
 枯れずに美しい花をつけたままで、そこにありました。

「……あった」

 これだけが、変わらないただひとつのもの。

 村も、私も、私を取り巻く環境も。
 全てが変わってしまったのに、これだけは変わらない。

 十年前を、前世をも思い起こさせるこれが、変わらないことが。
 どんなに変わっても、私は私なんだと。
 どんなに不安定な足場に立っていても、そう思わせてくれる気がする。

「……桜か」

 後ろで、ヘンリーが呟きます。

「あるんだな。この世界にも」
「うん。あったんだ」
「……綺麗だな」
「うん。綺麗だね」
「……いつか。見たいな」

 そうだね。
 とは、言えない。

 ずっと先に、ヘンリーを連れて行ってあげることは、きっと出来るけど。

 思い描く形が、私とヘンリーでは、きっと違う。

「……行こうか」
「ああ」

 桜の一枝を持って立ち上がり、寝室を出て階段を下り、外に出ます。

 今度来るときは、みんなを連れて。
 という決意を込めて、もう一度室内を見回して。
 扉を閉めて鍵も閉め、懐かしい空間から意識も切り離します。

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