閃光の傷跡
[4/4]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
ネンカンプが前線に立つ機会は訪れることはなく、ラインハルトの遠征に従った諸提督の中で元帥杖を授与されるのは最も遅れることとなったのであるが、彼が不満を口にすることはなかったという。
これに伴いレンネンカンプ艦隊は解体され、アーヴェルカンプ、オーブラー、クナップシュタインらの諸提督は中将の階級を得てラインハルトの直属に転じた。唯一参謀長グリルパルツァー少将はその識見を買っていたブルーノ・フォン・シルヴァーベルヒの要請で二階級を特進の上フェザーン外縁星系の惑星開発を新たな任務とすることとなった。これに伴いグリルパルツァーが帝国騎士に叙せられたのは軍における双璧に相当するものを内政においても作り上げようとの意図によるものであった。他にも数十人単位の平民出身の士官が新たにフォンの称号を帯び、行政官に転じた。ナイトハルト・ミュラーに抑留されたままであったオーブリー・コクランもこの中に含まれていたが、これは同盟人に対する政治宣伝の意味が多分に含まれていた。
「こいつは…恐ろしいな」
フェザーンからのTV中継に明らかに納得していない表情のオーブリー・コクランの顔を認めて、ヤンは珍しく真剣な表情で言った。
「オーベルシュタイン上級大将あたりの知恵ではないでしょうか」
「だとしたら余計に恐ろしい。今までローエングラム公は政略というものを嫌悪しているふしがあった。だが今後、政略を用いることを躊躇わないとなると」
ヤンは紅茶のカップを卓上に戻した。
「まいったね、こりゃ。打つ手なし、かな」
ヤン・ウェンリーが真剣な表情というものをしたのはこのときが最後であった、と後世の歴史家は語る。
宇宙暦が廃止されて以降の彼はメックリンガーに懇請されて就任した歴史博物館の館長としては副館長に務めのほとんどを丸投げし、ソリビジョンのクイズ番組に出演するようになってからは珍妙な回答を連発して司会者のホワン・ルイを失望させ、メックリンガーの後任を引き継いだグリルパルツァー、トゥルナイゼンに彼をチャオ・ユイルンの末路に落とし込むことを早々に放棄させることになるのである。
それは、彼とラインハルトの光に目を射られた若者の新たな旅路の始まりでもあった。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ