閃光の傷跡
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の「少年期」を笑っているように思われた。
ヒルダは懸案を解決しておくいい機会だと思った。
「閣下」
「なにかな、フロイライン」
「お許しを得て申し上げます。ハイネセン駐在弁務官の人選について、でございます」
「珍しいこともあるものだな。あなたがオーベルシュタインと見解を同じくするとは」
ヒルダが口にする前に、ラインハルトはその意図するところを見抜いて言った。
その言い様は皮肉のようであったが、不快を感じていないのは明らかだった。
「では聞こう。レンネンカンプが鎖に繋がれた猟犬でしかありえぬとすれば、何人をもって同盟政府の監視者を務めさせるべきか、フロイラインには考えがあるのだろう」
訊く、というよりはただ聞く姿勢を見せて、ラインハルトは問うた。これに対するヒルダの返答は明言を避けつつも明快だった。
「同盟政府を監視することはもとより、ヤン・ウェンリー一党の牙を抜き、ヤンを彼が望む安逸に封じ込めるためには、威をもって同盟政府を圧する実力を備えつつも軍人の型に留まらぬ思考のできる人間である必要があります。そうなると、おのずと人選は限られてくるでしょう」
「なるほど。その通りだ。ではメックリンガーに任せることにしよう。これでよろしいか、フロイライン」
「それでよろしいかと存じますわ。もう一つ申し上げますならば、レンネンカンプ提督が士心を得たよき将領であることもご考慮くだされば将兵も安堵することと思います」
「まるで母親のようだな、フロイライン」
ヒルダの表情にらしからぬものを見出したのか、ラインハルトは「青年のように」苦笑した。この方はいよいよもって、子供時代の終わりを迎えようとしておられる。戸惑いの表情を浮かべつつ、ヒルダは心の中で安堵の溜息をもらした。
「レンネンカンプはものがたい父親だ。息子としては真似をしてもすまいとしても、悪影響は避けられぬ。だが老兵には、よき上官だ。去りゆく者たちが安心して去って行けるためには、あの男はなくてはならぬ存在だな」
ヒルダはただ黙って頭を下げた。
その日のうちに、正確にはヒルダが辞去せぬうちにハイネセン駐在弁務官の人事は変更された。弁務官はエルネスト・メックリンガー大将がこの任に就くこととなり、レンネンカンプ大将は新設の廃兵院院長と旧帝国領残留の治安部隊の統括を任務とすることとなった。ヒルダはレンネンカンプがこの措置を不満に思うのではないかと心配したが、意外にも好感を持って受け入れられた。
「飲み慣れぬ水を飲んで兵が体を壊してはといささか心配しておりましたが、これで安心いたしました」
レンネンカンプは損耗の激しい艦隊や傷病兵、従軍が長期に及んでいる兵を一足先に帝国本土へ連れ帰るよう命じられ、むしろ意気揚々として帰国の途に就いた。結局この後、レン
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