第三章:蒼天は黄巾を平らげること その2
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てもいいだろうに。広宋は今日もいつも通りの日々を送っているようだ。
『しかし』、と黒ずくめの服装をした男は思案する。日に日に切迫する戦況が彼の耳に及んでいるほど、黄巾賊を囲む情勢は悪い一途を辿るばかりであった。
宛城に篭城した趙弘はよく持ちこたえて士気を維持しているが、それを崩すように官軍が攻勢を掛けている。豫州・潁川の自軍が壊滅するのは目に見えていた。どの道、彼らは玉砕か降伏のどちらかを迫られるだろう。
また自分達が居る広宋にも官軍が集結しつつあるが、噂によるとその指揮官の一人である盧植は、洛陽から派遣された小黄門・左豐に賄賂を贈らなかったために讒言を受けて左遷され、新たに中郎将である董卓があとを継いだらしく、しかし一度戦って敗北を喫した後は軍の陣地を遠くに置いてこちらを監視するに留まっている。一体やつは何のために遥々洛陽から出向いてきたのか。
今は新たに合流してきた公孫讃軍と袁紹軍が中心と成り、こちらを攻めている。それでも数の有利が覆る事はありえないが、しかし武将と兵の質で敵軍側が圧倒的に有利なのは明白であった。豫州・潁川平定後、官軍の援軍が向かってきたら、そのときで終わりだと男は確信していた。
今、喜びをもって舞台を踊り歌う三人の少女らを盛り上げている彼らも、少なくともその半数は大地へと還る事だろう。それを知らぬが仏と騒ぐ彼らは見るに耐えず、男は市内へと足を運んでいった。
賊軍が跋扈するこの場所は彼らの本拠地であるがためにある程度の治安維持、またの名を武力統制が行き届いているのか、身内限定で安全な場所となっている。元々農民上がりのものが多いためか農具や食料品を扱った店が立ち並んでおり、いずれはそれも尽きる物と知りつつも売りさばく彼らを見て、何も出来ない自分に男は罪悪感が抱いた。彼らより立場が上であるにも拘らず、なぜ軍事的行動を縮小していくようにしか働きかけられないのか。
遠くから聞こえてくる歌声と歓声が、やけにやかましく聞こえてしまう。あんな風に馬鹿になれたら、どんなに幸せな事だろう。
「そこの若いの、止まってくれんか」
ぞわりと、耳元に入ってくる皺がれた声。男は顔を向けた。
ぼろぼろの白い服を来た爺が路地に腰掛けている。手に持った琴は年代物であろうか、艶やかな光沢を放っていた。見事に蓄えた口ひげを撫でながら爺は再度言う。
「ぬし、中々に懊悩しているようだな。若いのに随分と皺が多いようだ。・・・なるほど、あれを見て悩んでいたのか?」
男が来た方角へと目をやって、にたりと爺はにやける。老人が見遣った先には喚き散らして奇声をあげる群集ではなく、可憐な三人姉妹がいる事を悟って男は警戒する。
ーーー見事な洞察力だ。一体何者なんだ。何にせよ、この者を見過ごすことが出来ない。見
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