第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十七 〜愛刀〜
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確かに、土方様と董卓様、お二人にとってはまたとない好機かと。……ですが、同時に危険なご判断、とも言えますな」
ジッと、張世平は私を見る。
「そもそも、そのご決断。土方様御自身には、何の得がありましょうか?」
「……損得勘定、か」
「手前は商人ですからな。失礼ではございますが、董卓様と共に土方様まで巻き添えになる……その恐れが多分にありますな」
「そうだ。私と月がただ思いつきで動き、手をこまねいているならば、な」
「……なるほど。何やら、思案がおありのご様子。いや、手前の危惧など、ただの取り越し苦労のようですな」
どうやら、得心がいったようだな。
私も、多くは語るつもりなどない。
「では、土方様。手前の御礼、受けていただける事は確か、ですな?」
「好意を無にするつもりはない。ただし、今は受け取る訳には参らぬ。今は、だがな」
「わかりました。では、その日まで、手前がお預かりするという事で」
と、何かを思い出したかのように、張世平は手を打った。
「そうそう。土方様、刀剣にはお詳しいですかな?」
「些かなら」
「そうですか。実は、ひょんな事で手に入れた剣がございましてな。土方様に是非、見ていただきたいのですが」
「良かろう」
「では、暫しお待ちを」
奥に入った張世平は、二振りの剣を手にしていた。
……日本刀のような、いや、日本刀そのものではないか。
「これにございますよ」
受け取った私は、長刀を鞘から抜いた。
……まさか、これは。
刃文といい、造り込みといい……あり得ぬ。
「張世平」
「はい」
「これを、何処で手にした?」
「商いで、立ち寄った市に売られていたものです。錆が酷いので捨て値でしたが、何故か心惹かれまして」
「お父様? どうなさったのです?」
月が、不思議そうに私を見る。
「……私は、夢でも見ているのであろうか」
そう呟き、兼定を抜いた。
我が愛刀、和泉守兼定。
……いや、正しくはこれは『会津兼定』。
無論、業物である事は今更疑わぬ。
だが、この一見、錆だらけの刀……これは紛れもなく、二代目兼定。
探し求めて、ついに手にする事の適わなかった、『之定』……信じられぬ。
もしや、と思い、もう一振りも抜いてみた。
……やはり、な。
贋作ではない、真の堀川国広まで揃うとは。
しかも、『本作長義』の銘……尾張公拝刀の、『山姥切』。
冗談としても、笑い飛ばせぬ組み合わせだ。
「土方様。どうやらその剣は、あなた様のお手元にあるべきのようですな」
「……何故、そう思う?」
「はっはっは。普段何事にも冷静な土方様が、そこまで動揺なされるとはよくよくの事。それに、手前は商人、刀剣は持っていても宝の持ち腐れにございますよ」
「では、この二振り
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