崑崙の章
第21話 「ほらよ……涙拭けって」
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」
周囲を見回し、木々が少なくなる方へと足を向ける。
体感にして三十分程度で森が途切れ、開けた草原が見えた。
「草原か……とりあえず水場があればよかったんだが」
ここが漢中周辺であるならば、稲作が豊富なはず。
ということは湿度も高く、地面の下には地下水も豊富だということ。
それはつまり池や川など、用水に使える水辺があるはずだ。
「ともかく場所がわからないからな……馬や馬車などが通った後なんかがあればいいんだが」
まともな街道の整備などは行われていないこの時代。
いずれは整備をするように申し伝えてはおいたけど、たかだか一年でそんなことができるはずもなく。
状況次第ではあるが、俺の持って帰る金塊という資金源もないならば……いまだに街中の整備で手一杯のはず。
であれば、交易商人たちの往来とて大したことは……
「……?」
そう思った矢先に、草原の先に動くものを見つける。
大体一km前後……二、三里という先に荷馬車といえるような物が見えた。
明け方の朝日の照らされて、その姿がよく見える。
「おお……ラッキー!」
俺はそちらへと向けて走り出しながら、大げさに手を降った。
もちろん、不審者と見られないためである。
「おーい! そこの人〜! 悪いんだけど道教えてくれ〜!」
しばらく手を振りつつ近づくと、最初はびくっとしながらも馬を止め、手を振るおっちゃんの姿があった。
「悪いな、止めちゃって。道にまよっちゃってさ……」
「ははは、なあに。よくあることさ。あんたも漢中にいくつもりなんだろ?」
「へ?」
よくあること?
ここって迷いやすいのか?
「春からこっち、漢中に行く奴が多くてなぁ。俺もしぼりたての牛乳を市場に納めに行くんだよ。それで道を聞かれることが多いからもう馴れたぜ」
おっちゃんは、がははと笑いながらそう言う。
牛乳か……できるなら市場で取り扱ってほしいと書いておいたけど、どうやら流通しだしているようだな。
「へえ……おっちゃんはこの辺の農邑の人かい?」
「ああ。ここから南に十里(五km)ほどいったところにある、一番近い邑だよ。新しい入居者の受け入れもしているから賑わっているぜ」
ふむ……農邑の管理と新規開拓は順調のようだなぁ。
「正直助かったよ。漢中は……向かう先か」
「ああ。何なら乗って行くかい?」
「え? いいのか? 随分無防備だけど」
普通は……この時代の普通では、見ず知らずの人間に対して手を差し伸べるような人間は、騙されることを望む愚か者という風潮すらあるのに。
だからこそ、それを行う桃香に人心が集まるほど。
道を聞くぐらいはともかく、一緒に乗せて行って
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