崑崙の章
第21話 「ほらよ……涙拭けって」
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―― 盾二 side 漢中近郊 ――
うっ……
于吉の放った光が俺を包む。
と、上下感覚が狂うような一瞬の無重力感。
それに反射的に目を閉じる。
だが、それもすぐに収まると同時に、むわっとした湿気を感じる。
「…………ここは?」
俺は、ゆっくりと目を開ける。
辺りは闇夜の森の中だった。
周囲を見ても、ここがどこなのかまったくわからない。
「……しかも夜か。あっちじゃ昼夜なんてなかったからなぁ」
仙人界は常に明るかったので、時計がないと時間すらわからなかった。
だが、ここは夜がある。
それはつまり……ここは地上だということ。
「にしても……この熱気に湿気。今はもしかして……夏か?」
AMスーツにより外気と遮断されているとしても、顔は露出しているから空気を肌で感じることができる。
俺がミニヤコンカに登頂する前は、まもなく冬になろうかという季節だった。
であるにもかかわらずこの熱気……
(三百日経っているって、マジみたいだな……)
于吉の言うことが本当なら、すでに残暑と言っていい季節なのだろう。
顔に感じる蒸し暑さに、立っているだけでも汗が出てくる。
「まあ、それはともかく……ここ、どこだ?」
俺が周囲を見ても、森の中の少し開けた場所。
周囲に道があるわけでもなく、深い闇の中。
空にある満月が燦々と輝くお陰で、視界は多少良好ではあるが……
(……ともかく、朝になるまで時間を潰すしかないか)
月明かりがあるとはいえ、場所が場所だけに方角すらわからない。
せめて朝日が昇ればそれが東だとわかるから、大体の方角がわかるのだが……
(しまったな……せめて仙人界にあった時計でももらってくればよかった)
向こうは昼夜がわからないため、大時計が設置されていた。
さして必要と感じなかったのでスルーしていたが、探せば小さいな時計ぐらいあったかもしれない。
とにかく夜が明けるのを待つため、俺はその場で横になる。
見知らぬ場所で、夜に動きまわるのは危険だからだ。
(ようやく戻れるのか……みんなどうしているのかな)
俺は朱里や雛里、桃香たちのことを思いながら、しばし仮眠をとることにした。
* * * * *
「……ん」
顔に当たる熱を感じて目を開ける。
それは森の木々の隙間から差し始めた太陽の光だった。
ようやく夜が明けたらしい。
「っと……ふう」
起き上がってコキコキと首を鳴らす。
そして光が差し込んできた方角を見て、麻袋を肩に担ぎあげた。
「ともかく、森を抜けるか
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