20部分:第二十章
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ない世界と言う速水に対して誘惑めいた言葉を述べるのであった。その笑みはまるで魔界に誘い込む夢魔の笑みであった。
「少し。声をかければいいだけなのだから」
「私は一人の方だけが望みですので」
「真面目ね。相変わらず」
「この仕事の後でどうでしょうか」
沙耶香に右目を向けて問うた。
「東京で二人港を見ながら」
「ロマンチストね」
その言葉を受けても悪い感じはしない。むしろそれを期待しているかのような口調であった。しかし沙耶香はここでまた言うのであった。
「嫌いじゃないわ。けれど」
「何かありますか?」
「気が向いたらね」
そのうえでいつもの気紛れを見せてきた。
「そうしたいわね」
「つれないですね、相変わらず」
「つれないのもまた女心」
沙耶香は述べる。
「歌にもあるわね。風の中の羽根のようだって」
「リゴレットですね」
「ええ」
ヴェルディのオペラリゴレット第四幕で歌われる女心の歌の中の一節である。若く美男で権力も財力も持っている公爵があやしげな酒場で上機嫌で歌う歌である。沙耶香は女であるがこの歌を好んでいる。それは彼女もまた女を愛しているからであろうか。
「私もまた同じよ」
「全く。本当につれないものです」
「あくまで気が向けばよ」
悪い気はしてはいないが最後はそれに任せるという考えであった。それを今言うのだった。
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