暁 〜小説投稿サイト〜
私立アインクラッド学園
第二部 文化祭
第29話 あの瞬間から
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いて話す明日奈の瞳は、明日奈の想いを痛いほど映していたから。歌詞を考えるにあたって、その想いについては知っている。知っているはずだった。
 ──どうしてこんなに胸が苦しいのか。
 友人の恋だ。応援してあげるべきなはず。なのに、まりあの心は、それを拒否しているようで。

「わたしきっと……ううん、絶対。キリト君に恋してるんだと思う」

 明日奈が微笑んだ。

 ***

 恋。
 今までは考えたことすらなかった。
 初めて出会った時、和人はまりあの唄声を褒めてくれた。初めて、プーカの少女?マリア?ではなく、?桜まりあ?としての自分を褒めてくれた。綺麗な声だと言ってくれた。
 嬉しかった。そんなこと、一度だって言われたことがなかったから。

「あ……」

 小さく声を上げる。突然雨が降ってきたのだ。
 グラウンドのベンチに座っているまりあの躰を、雨粒が容赦なく叩く。
 ──もしかしたら、初めて会った瞬間から、あの黒髪の少年に心を奪われていたのかもしれない。
 でも。だとしても。友人であるアスナの恋を邪魔するなど、まりあにはとてもできない。──いや、そもそもまりあなど邪魔にすらならないのだろうか。
 どの道この不思議な気持ちは、消え去るまでしまっておくべきなのだろう。

「……制服、びしょびしょになっちゃう」

 まりあは1人呟くと、グラウンドを後にした。



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