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北京ラプソディー 
第五章
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「乾隆帝が来たんだよ」
「それでこの店で食ってか」
「美味って言ったんだな」
「お忍びで来てなあ」
 流石に皇帝が市井の店におおっぴらに来ない、だからお忍びでだというのだ。
「それで来てな」
「食ったんだな、この店で」
「そうなんだな」
「丁度あんた達が座ってるそこでだよ」
 おっさんは笑ってさらにほらを言った。
「座ってだよ」
「それで飲んでか」
「羊も食って」
「その時は何かえらく気品のいいお年寄りだって思っただけだったらしいんだよ」
 少なくとも市井にはいそうにもなかったというのだ。
「で、後でわかったんだがな」
「乾隆帝だったんだな」
「あの人だったんだな」
「そうだよ、あの乾隆帝だったんだよ」
 中国の長い歴史の中でも屈指の専制君主であり美食家でもあった彼のだというのだ。
「あの人が美味いって言ったんだよ」
「そりゃ凄いね」
「しかも俺達が今座ってるここで食ってか」
「何か歴史あるよな」
「面白いよな」
「だろ?それじゃあな」
 おっさんはここぞとばかりに二人にこうも言って来た。
「どんどん食うかい?」
「ああ、そうするよ」
「お金もあるしな」
「それじゃあな」
 二人も応えてだった、そのうえで。
 彼等は飲んだ、そして食った。値段は安かったので財布への負担は軽かった。
 だが店を出た時の二人はというと。  
 李は隣にいる王を見てだ、こう言った。
「おい、飲んだな」
「そっちこそな」
 王の方も言葉を返してきた。
「顔が真っ赤だぜ」
「俺もか」
「ああ、真っ赤だよ、しかもな」
 それに加えてだというのだ。
「言葉のろれつがおかしいぜ」
「そうか、そうなってるか」
「飲んだからな、本当に」
「あそこ酒もいいからな」
 羊だけでなく、だ。
「ついつい飲んでな」
「こんな風になるな」
 二人で肩を組み合い右に左に揺れながら話す。
 そしてだ、王がこう言った。
「なあ、今九時だぜ」
「まだ九時か」
「ああ、まだ九時かよ」
 夜はまだ長いというのだ。
「随分いたけれどな、店に」
「そうだな、けれどな」
「明日休みだしな」
「俺もだよ」 
 二人共だった、休みなのは。
「まだ飲むか?どうする?」
「飲むのかよ、まだ」
「ああ、どうする?」
 李は肩を組み合う王に問うた。
「そうするか?」
「そうだな、とはいってもな」
「安く多くだよな」
「姉ちゃんがいる店なんてな」
 こうした店は何処にでもある、だがだった。
「高いからな」
「しかもタチの悪い店多いからな」
 こう二人で言う、こうした店もまた何処にでもある。
「だから止めておいてか」
「ああ、じゃあな」
 ここで二人は酔っているなりに二人でじっくりと考えた、そし
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