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至誠一貫
第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十六 〜父娘〜
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過ごせぬ事は存じていよう?」
「むう。今宵ぐらい良いではありませぬか?」
 口を尖らせる愛紗。
 ……うむ、相当に酔っているな、これは。
「あ〜もう! 歳っち、アンタ最高や!」
 そう言いながら、霞はバシバシと私の背を叩く。
 この細腕の何処に、これだけの力があるのであろうな。
「全くだ。主、私の酒もお受け下され」
 そう言いながら、反対側に寄ってくる星。
 二人とも、その豊かな腕を押し当ててくる。
 ……男冥利に尽きるのやも知れぬが、安易に流される訳にはいかぬ。
「むー。霞ちゃんまで、お兄さんに密着するとは許せないのです」
「そ、そうれす! 歳三しゃま、わたひの酒を」
 呂律の怪しい稟、何を思ったか、大ぶりの杯を一気に口に含んだ。
 そして、いきなり私に抱き付いてきた。
「おわわわわわ、り、稟さん……大胆過ぎます」
 真っ赤になる愛里を余所に、稟は私に口づけしてきた。
 生温い酒が、流し込まれる。
「な、何をするのだ稟! 離れろ、離れんか!」
「い〜や〜れ〜す〜よ」
 愛紗が稟を引き剥がそうとするが、何処にそのような力があるのか、私にしがみついて離れようとせぬ。
「稟! 如何にお前とて、歳三殿は譲らぬぞ!」
「お、疾風、やる気だな。では、私も加勢するぞ」
 ……既に、収拾は不可能のようだ。
 数少ない素面の筈の元皓(田豊)に眼を向けたが、
「にゃははははっ! 元皓、大好きだぞ〜!」
「ちょ、ちょっと嵐。飲み過ぎだってば」
 ……救いを求めるだけ、無駄か。


「ふう……」
 混沌としたまま、宴は次々に酔い潰れた者が出て、なし崩し的に終わりを告げた。
 元皓と嵐は姿が見えず、愛里は真っ赤になりながら早々に退出したようだ。
 蘇双の酒は確かに美味ではあるが、少々破壊力があり過ぎたらしいな。
 あの霞や星までもが、あり得ぬ量を過ごした結果、今は食堂の床に伸びている始末だ。
 私はその場を抜け出すと、井戸へ。
 皆の移り香を消すのは無粋やも知れぬが、兵や庶人に見せられた姿ではない。
 ざぶざぶと、水音だけが静寂を破る。
 冷たい水が、私の心身を引き締めてくれる。
「どうぞ」
 と、傍らから手拭いが差し出された。
「……月か」
「はい。ふふ、大変ですね」
「今宵は無礼講、とは確かに申した以上、何も言えまい。月は酔っておらぬのか?」
「いえ、だいぶいただきましたが?」
 首を傾げる月は、傍目には酔っているように見えぬ。
 ……全く、この小さな身体の何処に、あれだけの酒を過ごせる秘訣があるのか。
 そう思いながら、月から手渡された手拭いで、顔を拭う。
「あ、お背中拭きますね。屈んで下さい」
「わかった」
 膝を曲げた私の背に、小さな手が触れた。
 同時に、吐息が肌をくす
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