第二章
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「よし、じゃあ旗に書くか」
「旗?日の丸か」
「あれに書くんだな」
「あれならいいだろ」
彼は戦友達にまた言った。
「書き残すのに」
「俺達の心をだな」
「それをだよな」
「ああ、だからな」
それでだというのだ。
「あれに書くか」
「よし、じゃあ日の丸持って来るな」
太い眉の彼が言った。
「すぐにな」
「よし、じゃあ日の丸が来たらな」
「書くか」
他の者達も言う、そしてだった。
彼等は日の丸を広げそこに一人ずつ名前を書いていく。日の丸の日輪を中心としてそれを囲む連判の様にしてだ。
彼等は国旗の中に彼等の名前を書いた、そして言うのだった。
「この旗、残してもらうか」
「それで後の連中に見てもらおうか」
「俺達の心をな」
「それをな」
こう確かな笑顔で言うのだった、そしてだった。
数日後彼等は一人もいなくなった、晴れやかな顔で出撃し空に飛び立った。残されたのは彼等がそれぞれの名を書いた日の丸だけだった。
その残された旗を見てだ、彼等に命令を出した士官は唇を噛んで部下達に言った。
「何があってもだ」
「この旗をですね」
「残すんですね」
「そうだ、残せ」
そうしろというのだ。
「絶対にな」
「そうですね、この旗はですね」
「残さないといけないですね」
「あいつ等の心がある」
この旗にはというのだ。
「だから何があっても残しておけ」
「はい、それでは」
部下達も唇を噛んで彼の言葉に応えた。
「この旗は残しておきます」
「いいか、何があっても残せ」
士官はとにかくこのことを注意して言った。
「絶対にな」
「そうですね、英霊達の心ですから」
「何があっても」
「もうすぐこの戦争は終わる」
日本の敗戦でだ、そもそも特攻なぞする位だ。戦局が日本にとって著しく不利であることは誰が見ても明らかだ。
だがそれでもだと、士官は言うのだ。
「それでも残さないといけないものはあるからな」
「それがこれですね」
「この日の丸ですね」
「日の丸に字を書くのもどうかと言う場合もある」
国旗への冒涜だからだ、だからそれはどうかというのだ。
しかしだ、今はだというのだ。
「これは残しておくぞ」
「そうですね、これは残して後世の者に見てもらいましょう」
「是非共」
周りも士官の言葉に応えた、こうしてだった。
この名前が書かれた日の丸は残された、そしてだった。
日の丸は鹿屋の海上自衛隊の基地に置かれた、そこには特攻隊に関する様々な資料が展示されている。
散華した英霊の魂を天女達が引き上げている絵、英霊達を見送った老婆が天に逝った時に迎える英霊達、そうした絵画や英霊達の写真や遺品と共に。
その日の丸もある、資料を観に来た学生が案内役の年配
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