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田舎の夏休み
第四章
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「いきなりだったから」
「そうよね、けれどまだ来てくれるよね」
「ここにだよね」
「ええ、毎年この季節にはね」
 夏、この時期にだというのだ。
「来てくれるわよね」
「うん」
 浩史はその由利香に顔を向けて答えた。
「そうするよ、絶対にね」
「待ってるからね、夏には」
「僕も何時か結婚するのかな」
 浩史は由利香のことから自分のことも考えて言った、顔は彼女から正面に戻してそして言ったのである。
「そうなるのかな」
「なるわ。絶対にね」
「まあ最近独身の人も多いけれど」
 ここでは少し苦笑いになる、この辺りは様々な事情がある。
「それでもね」
「結婚したいわよね」
「ちゃんと就職してね」
「頑張ってね、名古屋で」
「うん、何とかやってくよ」
 浩史は由利香に話した、そしてだった。
 由利香が結婚したことを実家で聞いた、そのうえで両親に言ったのだった。
「お姉ちゃん結婚したね」
「ああ、凄くいい結婚式だったらしいぞ」
「由利香ちゃん綺麗だったらしいわ」
「幸せになるよね」
 こう両親に問う。
「やっぱり」
「ああ、旦那さんもいい人だしね」
「絶対になるわよ」
 両親は息子に笑顔で話す。
「これから子供が出来て林檎園をやっていってな」
「幸福な家庭になるからね」
「そうなるよね」
 浩史も両親の言葉に頷く、その頷きと共に彼は自分の思いを消し去った。
 それから十年経った、その間浩史は大学に進学して就職して結婚した、そうして子供も出来て夏が来た時にだった。
 その生まれた息子に笑顔でこう言った。
「じゃあ今年も行くか」
「長野に?」
「ああ、行こうな」
「お父さん毎年あそこに行くよね」
 息子はその幼い目で父に言うのだった。
「どうしてなの?」
「思い出の場所だからだよ」
 浩史は優しい笑みで我が子に答える。
「だからだよ」
「それでなんだ」
「そうだよ、お母さんと一緒に行こうね」
「お祖父ちゃんがあそこで生まれたんだよね」
「それでお父さんにとってお母さんと御前の次に大切な人がいるんだ」
 彼女の顔を思い出しながらの言葉だ。
「だからなんだ」
「それでなんだね」
「そう、だから毎年なんだ」
「あそこに行くんだ、じゃあ行こうか」
「名古屋と全然違う場所だよね」 
 息子は父と同じことを言った、そして。
 父はその我が子の言葉に笑顔のままこうも言った。
「お父さんも最初はそう思っていたよ、それで嫌いだったけれど」
「今は違うんだ」
「御前も大きくなったらそのことがわかるかもな」
「僕にも?」
「そう、そうしたことがあれば」
 その時にだというのだ。
「わかるかもね」
「そうなんだ」
「そう、その時にね」
 笑顔で言う彼だった、そして。
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