第三章
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「また来たのね」
「うん、今年もね」
「どう?ここは変わらないでしょ」
「そうだね、あまりね」
「インターネットは通ってるけれどね」
それでもだというjのだ、林檎の木々の間を二人で歩きながら。
「それでもここはね」
「変わらないね」
「やることが一緒だから」
「林檎園?」
「そう、ここにいるからね」
だからだというのだ。
「一緒なのよ」
「それでなんだね」
「そうよ、私も浩史君も大きくなったけれど」
背は浩史の方が大きい、彼の方がだ。
「それでもここでやることは同じよ」
「由利香さんはずっとここにいるんだ」
「林檎園継いでね」
そうするというのだ。
「それで浩史君は名古屋よね」
「うん、ただね」
「ただって?」
「名古屋の食べ物は何処でも食べられるから」
そのインターネットの通販で取り寄せが出来る、浩史は成長してこのことがわかってきたのだ。
「だからね」
「それでなのね」
「うん、名古屋以外でもいいかなって」
「そう思ってきてるのね」
「けれど由利香さんはなんだ」
「そうなの、私はね」
ずっとここだというのだ。
「ここの仕事継ぐから」
「そうなんだ」
「そう、けれどよかったら」
「年に一度はだね」
「ここに来てね」
浩史に顔を向けて言う。
「この季節にね」
「うん、そうするね」
浩史はにこりと笑って由利香の言葉に答えた、そしてだった。
それからも毎年夏にはこの上野の林檎園に来た、そのうえで由利香と一緒にいた。
気持ちはあった、だが奥手な浩史は中々言えなかった、ただ由利香と一緒にいるだけだった。
そうして浩史が大学を卒業する年になり公務員試験に合格したお祝いも兼ねて長野に来たその時にだった。
既に農学部を出て家の仕事を本格的にはじめている由利香がこんなことを言ったのだった。
「私来年の一月にね」
「一月に?」
「結婚するの」
「えっ!?」
「結婚するの」
笑顔で繰り返した。
「お見合いしてね」
「そうなんだ」
「そうなの、相手は地元の人でね」
「長野の?」
「林檎園でお仕事してる人なの」
「ここで?」
「あっ、別のところでね」
働いている人だというのだ。
「その人とお見合いしてね」
「結婚するんだ」
「そうなの」
浩史の顔を見ての言葉だ。
「今度ね」
「そういえば由利香さんも」
「そんな歳だからね。何時までも一人って訳にはいかないし」
この事情もあった。
「それでなのよ」
「そうなんだ」
浩史は何処か驚きを隠せない感じで応えた。
「結婚するんだ」
「ええ。ただね」
「ただって?」
「驚いたみたいね、私の今の言葉に」
「まあね」
浩史もそのことを素直に言った。
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