第一章
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田舎の夏休み
年に一回、山下浩史は夏に実家のある長野の上野に帰っていた、そこは真田幸村ゆかりの場所として知られている。
だが子供の彼にとってこの場所はというと。
「何でここってこんなに不便なの?」
「名古屋から離れてるからだよ」
お父さんはいつも浩史にこう話すのだった、一緒にいるお母さんもだ。
「だからだよ」
「そうよ、私達が住んでいる町からね」
「車で何時間もかかるし」
いつも車で帰省している、それでこう言うのだった。
「しかも山を何度も越えるし」
「長野は山が多いんだよ」
お父さんの実家だ、実家はお父さんのお兄さんが継いでいてそれで家業である林檎農家を経営しているのだ。
その実家に戻るまでがなのだ。
「だからね」
「木が一杯ある山を幾つも越えて」
「行くんだよ」
「それでなんだ、後は」
「お蕎麦かい?」
「きし麺ないよね」
浩史にはこのことも嫌だった。
「ういろうも味噌カツも海老も」
「長野にはないよ」
「お蕎麦も林檎も好きだけれど」
それでもだというのだ。
「きし麺もういろうも味噌カツも海老もなくて」
「鶏もっていうんだね」
「名古屋の美味しいものないしドラゴンズの放送ないし」
浩史は絵に描いた様な名古屋の子供だ、とにかく名古屋にあるものは全部好きなのだ。
だがその全部がなくてそれでなのだ。
「上野好きじゃない」
「まあそう言うな、お父さんの実家だからな」
「一緒に行こうね、年に一度ね」
「うん、それじゃあね」
毎年こんなやり取りをしてその上野に行く、お父さんの実家は山のすぐ傍にある村の中にある。家は大きいがそれでもだ。
木造の古い家で何とか水道やガス、電気が通っている感じだ。まだ牛や馬がいてすぐ傍に林みたいな林檎園がある。
おじさん、お父さんのお兄さんは恰幅のいい大柄で顎鬚を生やしている。痩せているお父さんとは全く似ていない。
おじさんには娘がいた、その人はというと。
いつも白い上着と動きやすいズボンだ、歳は浩史より二歳年上だ。
名前を山下由利香という、髪は黒のショートヘアでいつも明るい笑顔だ。
背が高く男の子みたいな顔であるが整っている、その彼女がいつも彼に言うことは。
「いらっしゃい、浩史君」
「う、うん」
「今年も来てくれたのね」
「お邪魔します」
「遠慮はいいのよ、従姉弟同士じゃない」
「ははは、そうだな」
おじさんも笑顔で二人にいつも言うのだった。
「じゃあ今年もな」
「浩史君林檎園に連れて行っていいわよね」
「ああ、ただしな」
「林檎は傷付けるなよね」
「林檎は生き物なんだよ」
だからだというのだ。
「だからな」
「ええ、林檎は傷付けないで」
「
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