第二章
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その中でだ、張は妻にこんなことを話した。
「拉麺っていってもな」
「それもよね」
「北京のものもあればな」
「上海も広東も四川もあるわね」
「あるさ、けれどな」
それでもだというのだ。
「揃えられるだけ思いきり揃えるからな」
「拉麺もね」
「もう時代が変わったんだ」
あらゆることで使われる言葉だがこれは料理については特に使われる言葉だ、それで張も晴花に言ったわけではないが使ったのだ。
「だからな」
「拉麺もなのね」
「北京でも海老が食える」
最近までとても無理なことだった。
「四川のあの辛い麺だってな」
「食べられる様になったわね」
「じゃあ揃えるべきだろ、絶対にな」
「そうね、それじゃあね」
「見ていろ、何でも揃えるからな」
こう言ってだ、そのうえで。
張は店に中国のあらゆる麺を揃えた、調べられるだけ調べて集められるだけ集めた。その結果メニューは百では収まらなくなっていた。
麺といってもまさに色々だ、例えば。
「刀削麺ね」
「ああ、身に着けたよ」
張はどうだという顔で晴花に言う。
「俺自身がな」
「よくあんな難しい麺を身に着けられたわね」
「苦労したさ、けれどな」
「好きだからよね」
「それに野心もあるからな」
野望というよりは夢に燃えるその笑顔での言葉だ。
「この店に中国のあらゆる麺を揃えるってな」
「だからなのね」
「刀削麺を作られる奴は少ないさ」
このことは確かだ、とにかく難しい料理だ。
「けれどな」
「努力したのね」
「夜中にこっそりとな」
妻にも食べられるものを出せるまでだ、ここにも彼の料理に対する心構えと気迫があった。
「そうしていたんだよ」
「そう、じゃあ」
「これも出すな。けれどやっぱり店の主軸はな」
「拉麺なのね」
「何か噂じゃ日本の拉麺は我が国の拉麺とかなり違うらしいな」
ここで怪訝な顔でこのことも言う。
「どうもな」
「そうなの」
「日本人がこっちに来て拉麺食ってびっくりするらしいな」
「あっちの拉麺と違うっていうのね」
「みたいだな。アメリカ人も言うな」
「その国それぞれで拉麺も違うのね」
「まあ中国の中でも随分違うからな」
本場のこの国でもだというのだ。
「それも当然か」
「それでここで出すのは中国のよね」
「ああ、それぞれの地域ごとのな」
晴花にも最初から話しているそれをだというのだ。
「出すからな」
「いよいよなのね」
この店はただ麺の種類を増やしているのではない、店の中で研究をしていって店に出しても売れる味になったと判断してから出すのだ、それでだ。
「上海や広東の拉麺も」
「四川の方もな」
「出すのね」
「ああ、出す」
妻に確かな顔で告げる。
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