第二章
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「おいらは遊び人の金さんでい」
「奉行所から出られたらいつもそうですね」
「おうよ、奉行でいる時もあるけどな」
「こうした時はですか」
「元々堅苦しいのは苦手でな」
下駄も高らかに鳴らす、実に自然に。
「それでなんでい」
「よく江戸の者は言いますが」
「おいらのことを遊び人っていうんだな」
「はい、遊び人の金さんと」
「いいことじゃねえか。とはいってもおいらが奉行とはばれていないな」
「ご老中は御存知ですが」
水野忠邦だ、彼は知っているというのだ。
「それに北町の矢部様も」
「阿部さんには話をしてるぜ、ご老中は渋々ってところだな」
一応納得はしてもらっているというのだ。
「まあ江戸のもんにばれなければいいさ」
「流石にと思いますから」
江戸を守る奉行がまさか遊び人として町を歩いているとはというのだ。確かに今の遠山は遊び人にしか見えない。
「それは」
「だからいいんでい。まして武士の格好で吉原に行くのもな」
「よくないと」
「遊ぶ時には遊ぶ格好があるんだよ」
「それが今ですか」
「そうでい。じゃあ行くぜ」
こう与力に言ってだった。遠山は吉原に向かった。
夜の吉原は人で溢れ返っていた、灯りの中に赤い店と白く化粧し着飾った花魁達が浮かび上がっている。
店の前に行くと花魁達が見える、その中で。
遠山は一番のお気に入りの娘を選んで与力に言った。
「おい、おめえもな」
「拙者もですか」
「拙者じゃねえ、あっしとも呼べ」
「あっし?」
「おめえは今与力じゃねえからな」
だからだと、小声で囁く。
「だからな」
「わかりました、あっしですか」
「そうだよ、おめえも誰か選べよ」
「拙者、いえあっしはこうした遊びは」
「しねえのかい」
「はい、ここに来たのもはじめてです」
「別に床に入る必要はねえよ」
吉原でやることといえばそれだがそれはしなくてもいいというのだ。
「あれだな。瘡毒が怖いんだな」
「ああした死に方はしたくないんで」
「じゃあ酒でも飲んでな、おいらもそうするからな」
「奥方に気遣われてですか」
「そうでい、今は女房一筋でい」
遠山には側室はいなかったらしい、誰もが側室を持てるという訳でもないがそれ以上に彼は正妻が好きだったのだ。
だから与力にもこう言ったのである。
「まあそういう話は置いてだよ」
「部屋に入るんですね」
「おう、おめえもおめえでそうしな」
こう話してだった、遠山は選んだ花魁と共にその二階の一番奥の部屋に入ろうとする、だがここでだった。
店の親父も花魁も怪訝な顔になって彼に言った。
「いいんですかい?本当に」
「あちき等はいいでありんすが」
こう彼に言うのだった、尚彼等も遠山の正体には気付いていない。
「あ
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