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もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?
宝剣演義・其ノ八
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とでも言っておきます」
「・・・・・・そう、か」

グレアムは取調室の粗末な椅子にもたれかかり、深く思い溜息を吐いた。

使い魔の姉妹が拘束されると同時にグレアム自身の下に出頭命令が下った。管理局の権力と金をつぎ込んだ闇の書封印計画がばれてしまったことを悟ったグレアムは大人しくその出頭命令に従った。その先で待っていたのがこれだ。

嘗て夜天と呼ばれ、先人たちの手によって望まれぬ形に歪められ、自分の部下を含める多くの命を奪ってきた呪われし闇の書。自分がたとえどんなに手を汚してでも葬ると決めた書。長年計画を立て、何度も考え直し可能性を模索した末に、たった一人の少女を生贄に捧げると決めた計画。それが水泡に帰したことを実感させられた。

もうあれは過去と同じ暴走を起こすことはないだろう。これで計画にあったただ一人の犠牲すらない物語のような大団円。だのに、彼の心に広がるのは安堵でも達成感でもなく虚無感だった。あの書に復讐し、未来の悲劇を回避するためだけに費やしてきたあの日々は何だったのか。

「私は、何がしたかったんだろうか・・・10年以上の時を費やして私が見たかったのは・・・何だったのだ?」
「さあ?金も覚悟も時間も立場も費やして6人もの命を殺そうとするろくでなしの心理など、私には砂の一粒ほども理解できません」
「厳しい事を言う・・・君だって選択を迫られたかもしれない」
「迫られませんよ。私にはいつでも一つしか選択肢が見えませんから」

歯に衣着せぬ物言いで何の迷いもなく言い放たれた言葉にグレアムは苦笑するしかなかった。守護騎士と管制人格を人数に入れているこの少年は、きっと途方もない御人好しだ。だが優しいだけでは人を救えない。現実は物語のように上手くいかない。クロノの言葉を借りるなら「世界はいつだってこんなはずじゃないことばかり」だ。

「だからいつかそれを知る時が来る、と言いたげな顔をしています」
「事実だよ。君が管理局という組織にいる限り必ず訪れる」
「だがそれは真実ではない。これから――事実でもなくなる」
「・・・?」

ふっ、と視界が暗くなり、やがてグレアムは自分の真正面にたったクルトがこちらを見降ろしていることに気付いた。その目には先ほどの感情の篭らない目ではなく、むしろ期待と希望にあふれた視線。その目がどうにも自分の矮小さを見せつけられているかのようで、思わず目を逸らした。

「私は己のやったことは全て話したよ。今の私は目的の無くなった抜け殻だ・・・これ以上私に何か用があるのかね?クルト・ルナエッジ上等空士」
「ええ、ありますよ。ギル・グレアム―――

 ―――夢の話をしましょう」




それは正に夢だった。お伽噺のような夢だった。どうしようもない、夢見がちな子供が考えるような夢そのもの
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