第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十四 〜袁本初〜
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数々の修羅場を潜り抜け、少なからぬ人の命を奪ってきたのだ。
刀こそ手をかけただけだが、何時でも斬り結ぶつもりで、暫し荀ケを見据えた。
……と。
荀ケは腰を抜かしたのか、その場にへたり込んだ。
顔は完全に青ざめ、歯の根が合わぬのか、ガチガチと音を立てている。
「……おい」
「ひ、ヒッ!」
短く声をかけたところ、とうとう精神の限界を超えたらしい。
そのまま、ガクリと気を失った。
私も兼定から手を離し、袁紹の方を向く。
「ご無礼仕った」
「……はっ? い、いえ、私の方こそ、とんだ醜態をお見せしましたわね。おほ、おほほほほ」
取り繕うように笑う袁紹だが、その声は、乾ききっていた。
「では、用件に入らせていただく」
そう言って、件の少女に、前に出るよう促した。
その夜。
袁紹から提供された宿舎に入った私達は、食事の後で集まった。
「……しかし、本当に袁紹に会えるとは思わなかったぜ」
そう話す少女は、幾らか表情が柔らかである。
「存外、素直であったな」
「ですねー。それにしても、袁紹さんは全然、渤海郡の現状をご存じなかったんですね」
「仕える官吏が皆、都合の良い事しか知らせていなかったようですし。……知ろうとしなかった袁紹さんにも、責任はありますけどね」
袁紹は、郡太守という身分には拘っていたが、その職責に相応しい働きをするつもりはないようだ。
それ故、全てを配下に丸投げ、報告だけを受けているらしい。
文醜はさておき、顔良がその矛先となっているようだが、本分は武官、行政手腕など期待するだけ酷というものだろう。
それでも、南皮周辺だけは何とか目を届かせようと努力はしている為、袁紹の目にも領内は平穏、と映ったのかも知れぬ。
少女の訴えに、最初は怪訝な表情を見せていたが、その真剣さに、事態の深刻さに遅ればせながら気付いたらしい。
……尤も、どこまで有効な手を打てるのか、怪しい限りではあるが。
「とにかく、あたしの話を聞かせられただけ、良かったよ。……あたし、何平ってんだ」
と、少女はぶっきらぼうに名乗る。
「何平……。元の名は王平、それに相違ないか?」
少女、いや何平は、私の言葉に目を見開いた。
「な、なんであたしの事を知ってるんだ?」
……やはりな。
策を立てたとは言え、鈴々の蛇矛を受けきる腕前、ただ者ではないと思っていたが。
「このお兄さんはですねー、いろいろと不思議な知識をお持ちなのですよ」
「わたしもお仕えしてまだ日は浅いですが、全くの同感です。名前を聞いただけで、その人の主な経歴を述べられる事も、珍しくないんですよ」
「……じゃあ、あたしの事もそうだってのか?」
「そう考えて貰って構わない。だが、知っているからどう、というつもりはない。そこ
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